安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道㉙
細田兄の身長が高くなってからはほとんど打たれなくなったカーブを、安達にセンターフェンス直撃のタイムリーヒットにされると、最終打席には渾身のストレートをライト方向への特大ホームランにされて、チームは敗北してしまった。
それ以来、細田兄は安達のことを弟以外で初めてライバルとして強く意識するようになる。そしてこの同時期に、弟の雄二がシニアの関東春季大会でエースとして大活躍し、チームを優勝に導いた。
(このままじゃ、安達にも雄二にも負けっぱなしだ)
そんな危機感から、細田兄はカーブ以外の新しい変化球を覚えようとしたが、どの変化球もうまい具合に変化せず、中々上達しなかった。そんな細田兄を見かねて、大泉監督はこんなアドバイスを送った。
「細田君、多分弟さんが複数の変化球を駆使して活躍している姿を見て自分もと思ったのかもしれませんが、はっきり言って君には何種類も器用に変化球を覚えられる才能はないと思いますよ」
「そんな……」
辛辣な意見にショックを受ける細田兄だったが、大泉監督はこう続けた。
「ただし、ストレートとカーブの質だけを見れば、弟さんにも負けていません。ならば、今あるその強力な2つの武器を磨き上げることに集中してみてはいかがでしょうか?」
大泉監督からのアドバイスを素直に受け入れ、ひたすらストレートとカーブだけを磨き続けてきた細田兄。そう全ては、弟、そして安達という2人のライバルに勝つために……。
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(そうだ。俺はあの日のリベンジを果たして安達に勝つために、ずっとストレートとカーブを磨き上げてきたんだ。それなのに、こんなやり方じゃ例え抑えられたとしても、納得できる訳ねーよな)
5球目。低めいっぱいにカーブを要求するキャッチャー森のサインを無視して、ど真ん中目掛けて渾身のカーブを投じる細田兄。
(やばっ!)
明らかにサインよりも高いコースにきたカーブに焦る森。
(よっし、もらった!)
やっと低め以外のコースに球がきたため、思わず笑みを浮かべながらスイングする安達。しかし、安達の表情はすぐに真顔へと戻った。
「ストライク!」
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