安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道⑳
5回表。この回の先頭6番佐々木が、細田兄のストレートを初球から積極的に打ちにいった。
「カーン!」
結果はサード方向へのゴロ。しかし、これが絶妙なボテボテ具合でサードの処理が一瞬遅れる。その間に俊足を飛ばす佐々木。
「セーフ!」
ノーアウトの貴重なランナーが出て、4回に続く得点に期待が膨らむ船町北だったが……。
「ストライク! バッターアウト!」
「カーン!」
「アウト!」
「ストライク! バッターアウト! チェンジ」
2つの三振とスクイズ失敗で、せっかくのチャンスを潰してしまう。
123456789
船町北 00010
三街道 0100
こんな三街道にとってはピンチを切り抜けた後の良い流れで、逆に船町北にとっては嫌な流れで迎えた5回裏。
「ボールフォア!」
ピッチャー川合がいきなり9番細田兄にフォアボールを与えてしまい、ますます三街道に流れが傾きそうなそんな状況を、ここから再びマウンドに上がった比嘉が一変させる。
「ストライク!」
(なるほど。これが浮き上がってくるストレートか。確かに、少なく見積もってもボール7個分は浮き上がって見えるな)
1番バッターの佐藤はこんなことを考えながら、電光掲示板に映し出された球速を確認した。
(137キロ? 確か浮き上がるストレートは、球速が120キロ程度だったはず。てことは、今の球は最初の打席で見た普通のストレートってことか? でもそれにしてはキレが良すぎる。たまたま調子が良かっただけなのか?)
佐藤が混乱している間に、比嘉は2球目を投げる。
「ストライク!」
(球速は136キロ。これだけ見れば最初に見たストレートと同じだが、やっぱり浮き上がり具合が増している。てことはつまり、今まで遅い球速でしか投げていなかった浮き上がるストレートを、この回からは普通のストレートと同じ球速まで上げて投げ始めたってことか)
佐藤の中でそのような結論が出てスッキリしたところで、比嘉が3球目を投げる。
(この感じだと、外角の真ん中くらいの高さまで浮き上がってきそうだ。そこにバットを出せば、当たる!)
しかし、佐藤が出したバットのさらに上を、比嘉のストレートが通過していった。
「ストライク! バッターアウト!」
(はぁ? 何だ今のストレートは。ボール7,8個分上をめがけてバットを出したっていうのに、さらにその上を超えていきやがった)
佐藤は茫然としながら電光掲示板の球速をチェックすると、そこには122キロとの表示が。
(てことは、今のが本当の浮き上がるストレートなのか?)
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