安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道②

 時を同じくして、三街道高校でも明日の決勝戦に向けてのミーティングが行われていた。

「明日の船町北の先発は、今まで通りのパターンなら比嘉君と川合君が打者1巡ごとに交代して投げてくると思われます。この2人に共通しているのは、ストレートしか持ち球がないということですが、そのストレートにはそれぞれ大きな違いがあります。まずは比嘉君のストレートから」

 大泉監督はテレビに比嘉が投げている映像を映しながら説明する。

「球速は130キロ台の中盤くらいですが、バッターは面白いようにボールの下を振って空振りしています。それも、ストレートしかこないとわかっているにも関わらず。これを見るに、おそらく相当キレのあるストレートなのだろうと推察できます。おまけにコントロールもかなり安定しているので、これも厄介ですね。でも、みなさんのバッテング技術と対応力を持ってすれば、ストレート1本しか持ち球のない相手を打てないはずがありません。自信を持ってください。では次に、川合君の方のストレートを見てみましょうか」

 そう言うと大泉監督は、映像を川合に切り替えてから再び説明を始める。

「球速はほぼ全球150キロを超えていて、最速は155キロ。球の速さだけなら、全国でも数本の指に入るでしょうね。ただし、彼の長所は球が速い、ただそれしかないとも言えます。コントロールは滅茶苦茶で、ストライク率はギリギリ30パーセントを超えるくらい。ボール球に手を出さなければ、勝手に自滅してくれるでしょう。比嘉君と川合君は共にこれまで無失点を続けていますが、しっかりと実力で抑えている印象がある比嘉君とは違って、川合君に抑えられたバッターは勝手にボール球を打ちにいったりして自滅している印象が強いです。なのでみなさんは、二の舞を演じることのないように気を付けてくださいね」

「はい!」

「では次に船町北の打線についてですが、まず注意すべきはその圧倒的な走力でしょう。チーム全員足が速く、1度出塁を許してしまうと2塁、3塁と簡単に盗塁を決められてしまいます。恐らく走力だけなら、船町北打線は全国1でしょう。ただし、その足の速さも出塁さえ許さなければ効力を発揮しません。内野は常に前進気味の守備位置で守り、バントヒットや内野安打を常に警戒してください」

「はい!」

「そして最も注意すべきバッターは、言わずもがな安達君です。正直今でも私は、明日の試合安達君の打席は全て敬遠した方がいいのでは、なんてほんの少しだけ思ったりもしています。ですがそれ以上に、雄一君や雄二君なら安達君を抑えられるのでは、という期待もしています。2人共、どうしますか?」

※雄一は細田兄、雄二は細田弟の下の名前です。