安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道⑯

「さあさあ盛り上がって参りました。千葉大会決勝戦、船町北高校対三街道高校の試合ですが、この回ついに安達君のランニングホームランで同点に追いつきました。さて、解説の小田さん、この後の展開はどうなるでしょうか?」

「老婆心ながら、船町北の監督さんに忠告します。すぐにでも川合君をマウンドから下してまた比嘉君に投げさせるべきです」

「なるほど。それはなぜですか?」

「前の回の投球を見てもお分かりの通り、川合君のコントロールはあまりにも悪すぎますよ。1アウト取るまでに2回も四球を出していましたから。この調子でこの回も川合君を投げさせたりしたら、自滅するのは目に見えていますね」

「おっと。しかしこの回もどうやら船町北は川合君を続投させるようです」

「あっちゃー。やっちゃいましたね。ずばり予言するよ。この回、船町北は失点を許し再び逆転されるね」

「出ました! 本日2回目となる小田さんの予言です。思えば1回目の予言で外れたかに思われた安達君がホームランを打つという予言も、1打席遅れで当たりましたからね。果たして2回目の予言は当たるのでしょうか?」

 そんな予言をされていることなど知る由もない川合と、打席に上がる4番の角田。

(自分のミスは自分で取り戻してやる)

 ついさっきの守備で、安達の打球をキャッチし損ねてランニングホームランにしてしまった角田は、そのミスを取り戻そうといつも以上に打ち気になり過ぎていた。しかし、そんな角田を図らずとも川合は、自らの投球で冷静にさせてしまう。

「ボール!」

 ストライクゾーンよりも高めに50センチ以上も外れた川合のストレートを見て、川合は我に返った。

(そうだ落ち着け。こいつはコントロールが滅茶苦茶悪いんだ。黙っていても出塁できる相手に、積極的に打ちにいこうとするなんてどうかしていた。ようし、少なくとも2ストライクに追い込まれるまでは、この打席絶対にバットは振らんぞ)

「ボール!」

「ストライク!」

「ボール!」

「ボールファア!」

「おーと川合君、早くもこの試合3度目のフォアボールです。どうやらこの回もコントロールは不安定なままのようですね」

「だから言わんこっちゃない。船町北には申し訳ないけど、どうやらまた予言が当たってしまいそうだね」

(げっ、小田さんしれっと最初の予言も当たったことにしてやがる。さっきフォローのつもりで1打席遅れで予言が当たったって言ってやったのを真に受けたのか。全く、調子のいい人だな)