安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道⑮
4回表1アウト。打席に上がるは2番野口。マウンドには、細田弟に代わって右の細田兄が上がる。
(逆転するには2点が必要だ。そのためは何としても、安達の前に塁に出たい。細田兄のストレートは確かに速いし、カーブもやばい曲がり方をしてくる。でも俺だって、160キロのストレートに140キロの変化球をランダムに投げてくるあの化け物ピッチングマシーン相手に練習してきたんだ。その成果を、今ここで見せてやる)
そう気合を入れて打席に上がった野口だったか……。
「カーン!!」
結果は内野フライに終わった。
(くそっ! また打てなかった)
(内野フライとはいえ、俺のストレートに当ててきたか。さっきの星といいこいつといい、安達や山田以外のバッターも中々やるじゃないか)
2アウトランナーなし。3番の安達を打席に迎えたところで、ここで再び左の細田弟がマウンドに上がる。
(安達との対戦、結構楽しみにしていたんだけどなあ。いざ始まってみると拍子抜けだな。まさか低めの球は一切打てないだなんて、こんな致命的過ぎる弱点があったとはな。やっぱり高校生ナンバー1スラッガーは、昨日対戦した清村弟ってことで決まりだな)
最初の対戦で安達をあっさり抑えたことで、細田弟はもはや完全に安達のことを舐めていた。
(低めのストレートで、まずは1ストライクと)
そんな軽い気持ちで投げたこの1球は、確かに低めのコースに向かっていた。
(よし、低めにいったな。これで1ストラ……)
そう細田弟が確信した瞬間、なぜか安達がスイングを始めていた。
(えっ?)
確かに細田弟が投げたストレートは低めにいっていた。そして安達は、低めの球を打つことができない。ただし、安達が打てない低めの球というのは厳密に言うと、ストライクゾーンを高め真ん中低めの3分割にした際に低めのゾーンに全て収まっているかそれよりも低い位置にきた球を意味する。つまり、例え真ん中よりは低めでも、ほんの少しでも真ん中のゾーンにかすっている低めの球ならば打つことができるのだ。
そして今細田弟が投げたストレートは、ほんのわずか数ミリではあるが真ん中のゾーンにかすっていた。つまり、ギリギリではあるものの安達のバッティングの射程圏内であった。
「カキーン!!!!」
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