安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道⑮

「カキーン!!」

 安達のランニングホームランの興奮冷めやまぬ中、続く4番の山田も二遊間をしぶとく破るセンター前ヒットで出塁した。

「ナイス山田!」

「石川も続け!」

「この回一気に逆転するぞ!」

 安達のランニングホームランだけでは終わらずに打線が続き、船町北のイケイケムードが高まる中、細田弟は落ち着いていた。

(角田先輩の稚拙な守備のせいで点を入れられてつい平常心を失いかけてしまったが、次のバッターにも打たれて逆に冷静になれた。仮に角田先輩がもっと早く送球して安達を3塁で釘付けにできていたとしても、次のバッターに打たれたってことはどうせ点が入っていた訳だ。ならしょうがない。今はこのバッターを抑えて、逆転されないことだけに集中しよう)

 平常心を取り戻した細田弟の前に、5番の石川は成す術もなく三振に抑えられてしまった。

     123456789
 船町北 0001
 三街道 010

 4回裏。三街道の攻撃に入る直前、細田兄弟とキャッチャーの森は大泉監督に呼ばれて話し合いをしていた。

「監督、低めに投げたのに安達に打たれましたよ。やっぱりあの情報、間違いじゃないですか?」

「いや、そう結論を出すにはまだ早すぎます。森君、安達君に打たれた球は本当に低めにいっていましたか?」

「ええ」

「では聞き方を変えます。ストライクゾーンを高さ別に9分割した時、安達君に打たれたあの球は下から何番目くらいでしたか?」

「そうですね……だいたい3番目くらいだったかと」

「そうですか。ならば次から安達君と対戦する時は、下から1、2番目の範囲内だけでストライクを取りにいくつもりで投げてください。恐らくですが、さっきの球はギリギリ安達君が打てる高さの射程圏内に入ってしまったのでしょう。もしくは、あまりに低めばかりを狙われるもんだから無理して打ちにいったのか、そのどちらかです。もしも前者なら、投げミスさえしなければ必ず抑えられます。しかしもしも後者なら、投げミスしなくても打たれる可能性があります。なので間違っても、低めのコントロールだけを意識した置きにいくような球は投げないでください。仮に安達君の射程圏内に入ってしまっても、それでも抑えられるような力のこもった投球をお願いしますよ」

「はい!」