安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道⑪

(ボール5個分上を振れなんて言われても信じられなかったけど、あんなホームランを見せられちゃ信じるしかないな。とは言っても、最初の1球くらいは様子見でいくか)

 5番バッターの虹村は、そんなことを考えながら打席に立った。

(初球からいくたい)

 遅いストレートのサインを出す西郷と、ゆっくりと頷く比嘉。比嘉の指先から放たれた球は、今まで投げていたストレート以上の猛烈なバックスピンがかかりながら、西郷がミットを構える内角低めよりもボール3つ分ほど高めに向かっていった。

「ストライク!」

 想像以上に高めに浮いてきたそのストレートに、西郷はミットの先っぽギリギリでなんとか後ろに逸らすことなくキャッチすることに成功した。

(危なかったばい。この大会ではずっと投げずに温存していた遅いストレートだったばってん、きっと比嘉も早く投げたくてうずうずしていたはずたい。そのフラストレーションを一気に爆発させたような、とんでもないキレのあるストレートだったばい。今までのストレートに加えてこの浮き上がる遅いストレートを組み合わせれば、どんなバッターだって簡単には攻略できないはずたい)

 今まで何度も比嘉の球を受けている西郷ですら驚いたその球のキレに、比嘉のストレートを初めて目にした虹村が驚かないはずがなかった。

(何だ今の球は? ボール5個分どころの騒ぎじゃないくらい浮いてきたように見えたが?)

 虹村が困惑している間に、2球目の普通のストレートが投げられた。

「ストライク!」

(今のはだいたい5個分くらいか。これでも十分異常だが、さっきの球はこれ以上にヤバかった。でもさっきの球はもっと遅かったような? ていうかもう追い込まれちまった。あれこれ考えてる暇はない。次はとにかく振っていこう)

 3球目。外角の真ん中ぐらいに向かっていくストレートを見て、虹村は咄嗟に判断した。

(この感じだと、高めギリギリに入るか?)

 外角高めまで浮き上がってくるであろう位置に、バットをスイングする虹村。しかし比嘉のストレートは、そのバットのさらに上を通り過ぎていった。

「ストライク! バッターアウト!」