安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道⑩

 4番の山田をキャッチャーフライに仕留めた後、細田兄は続く5番6番も難なく抑え、2回表はあっという間に終わった。

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 船町北 00
 三街道 0

 そして2回裏。打席に上がった角田は、こんな決め事をしていた。

(取り合えず初球は、きた球のボール5個分くらい上をフルスイングしてみるか。ちょっと信じられないが、あいつら3人が口を揃えてそれくらいストレートが浮き上がってくるって言ってるわけだし、まずは信用してみるとしよう)

「カキーン!!!!」

 それは初球。出合い頭の1発だった。内角高めにいった比嘉のストレートが、角田のバットの芯に吸い込まれるかのようなドンピシャの位置に当たって、そのまま遥か彼方へとボールはすっ飛んでいった。

「うおおおおおお!!!!」

 試合の均衡を破る特大の1発に、球場が歓声で湧き上がる。まさかの1発に、唖然とする比嘉西郷バッテリー。だがそれ以上に1番驚いていたのは、打った張本人の角田だった。

(まさか、あのコースから本当にボール5個分浮き上がってくるとは。しかもここまでドンピシャに、バットの芯に当たってくれるとは……)

 角田はあまりにもうまく行き過ぎた1発に戸惑いながらも、チームや観客の声援に答えるように右拳を突き上げて、ゆっくりとベースを回っていった。

(クッソー! そんなに悪い球じゃなかったはず。それなのに、あそこまで完璧に打たれるとは。さすがに凹むぜ)

「タイムお願いしますたい」

 ここですかさずタイムを取り、マウンドに向かう西郷。

「今の1発は仕方がないたい。出会い頭の1発が、たまたま運悪くクリーンヒットしてしまった。そう割り切るたい」

「いや、俺のストレートがたまたまで打たれる訳がない。きっと何か、俺のストレートを打つコツでも掴まれているのかもしれません。予定よりも早いけど、あのストレートも解禁しましょう」

「確かにこれ以上、出し惜しみしている場合ではないたい。わかったばい。これからは普通のストレートに加えて、浮き上がる遅いストレート。この2種類で配球していくたい」

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 船町北 00
 三街道 01