安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道①

「わかってはいたものの」

「龍谷が負けたんだな」

「三街道強すぎだろ」

「細田兄だけでも厄介なのに弟まで強いし、その上なんだよあの継投は」

「打線の方もかなり厄介だぞ」

「下手したら、龍谷打線よりも怖いんじゃないか」

「明日の決勝戦、勝てる気がしないよ」

 龍谷千葉VS三街道の試合を見終わってそんな弱気な発言をしていた船町北高校の部員達だったが、そんな中でもモチベーションを保っている部員が数名だけいた。

「先輩達、何を弱気なことばっか言ってるんすか。俺が打たれなきゃ負けねえっすから、安心してください。あっ、でも川合先輩が打たれたら負けるのか。やばっ、何か俺まで不安になってきた」

「おい比嘉! 何言ってんだ。俺は相手が龍谷だろうが三街道だろうが打たれねえよ。お前こそ打たれんなよ」

「お前は打たれる心配よりもフォアボールの心配しろよ」

「吉田先輩、そんなこと言わないでくださいよ」

 明日の決勝で投げる比嘉と川合、そして今日すでに150球近い球数を投げて明日の登板はないだろうと高を括っている吉田の3人は、龍谷千葉が惨敗した様を見てもなお、三街道相手に勝つ気満々でいた。そしてもう1人。

「2人が抑えてくれるんなら、明日は俺が全打席ホームラン打つ予定だから、もう勝ちは決まったようなもんだな」

 安達も自分達の勝利を信じて疑わなかった。

「ただ心配なのは、勝負してくれるかだな。もし敬遠でもされた、その時は山田先輩、よろしくお願いしますね」

「おっ、おう。まっ、任せておけ」

 明日も安達の後ろの4番を打つであろう山田は、まだ試合は明日だというのにガチガチに緊張していた。

 そんな中、鈴井監督は明日の決勝戦での三街道の攻略法について話し始めた。

「この準決勝の試合を見てわかる通り、三街道は強い。だがそれでも、付け入る隙はあるぞ。まずはキャッチャーの森だ。1年にしてはまずまずの肩の強さだが、お前達の走力があれば2塁へも3塁へも盗塁はほぼ確実に決められるはずだ。だからバントでも内野安打でも何でもいいから、何としてでも出塁しろ。そして3塁まで走れ。そしたらバッターは何としてでも前に打球を飛ばせ。打ち上げたらダメだ。転がしてな。そしてランナーはホームに突っ込め。これまで鍛え上げてきたその足で、何としても点をもぎ取るんだ」

「はい!」

「そして安達、お前はホームランを打て。そして敬遠されたら、お前もみんなと同様3塁まで走れ。あとは山田、わかってるな」

「はい!」

「そして明日の先発は比嘉、1巡投げ終わったら今度は川合、この継投策で明日も挑む。三街道打線のバッティング技術や対応力は龍谷以上かもしれない。だが長打力に限れば4番の角田さえ気を付ければあとは龍谷打線の方が数段上。連打さえ許さずに粘り強く投げていけば、失点は最小に防げるはずだ。お前達、明日は頼んだぞ」

「はい!」

「それじゃあ今日は軽く調整だけして、明日は万全の体調で決勝戦に臨めるようにしてくれ」

「はい!」