安達弾~打率2割の1番バッター~ 第27章 夏の甲子園千葉大会準決勝 龍谷千葉VS三街道⑱

 細田弟が投げたストレートは、この日自身が投げた球では最速の153キロに及んだ。しかしそれでも、細田弟は投げた瞬間に一抹の不安を覚えていた。

(指のかかりが少し甘いか)

 外角の高め目掛けて清村弟を空振りさせようとして投げたストレートだったが、清村兄の大きなリードに気が散ったせいか、それともここまで投げてきた疲れが出たのか、スピードこそ出ていたもののキレは今一つだった。そんな失投とまでは言えないような僅かな隙を、清村弟は見逃さなかった。

「カキーン!!!!」

 清村弟が放った打球は、もう少しで場外になりそうな勢いの特大ホームランとなった。

      123456789 
 龍谷千葉 0000002
 三街道  000114

(あの程度の僅かな失投でも打たれるとは。これが高校生ナンバー1スラッガーの実力か。清村兄弟の弟、総次郎。そして俺のカーブを完璧に捉えてヒットにし、執拗に大きなリードを繰り返してきた兄の総一。この2人はこれからも要注意だな)

「よっしゃーよく打った清村弟!」

「面白くなってきた」

「これで4点差か。まだまだわからねえぞ」

「いや、だからもう結果は龍谷が惨敗するってわかってるんだってば」

「さっきからうるせえな。わかってても応援したいんだよ。だってあの絶対王者が俺達以外から負けるなんて、信じたくねえじゃねえか」

 千葉の絶対王者として長らく君臨してきた龍谷千葉高校。その強さを嫌というほど思い知らされてきた船町北高校の部員達にとってみれば、未だに龍谷千葉高校が負けたという事実は受け入れがたいものだった。

 しかし、7回表の龍谷千葉の攻撃はこの2点止まりに終わり、8回表もヒット1本が出たもののダブルプレーであっさり3人で攻撃が終わり、逆に三街道は7回裏8回裏とエースの山田からさらに1点ずつ追加点を奪った。
 
 そして9回表、龍谷千葉の最後の攻撃。内野安打で出塁し3塁まで盗塁を決めた清村兄の孤軍奮闘もむなしく、清村弟が4回目の打席に立つことすらないまま、龍谷千葉高校は三街道高校に惨敗した。

      123456789 計
 龍谷千葉 000000200 2
 三街道  00011411✕ 8