安達弾~打率2割の1番バッター~ 第27章 夏の甲子園千葉大会準決勝 龍谷千葉VS三街道⑯
「清村兄渾身のリードで挑発作戦も、ガン無視されて無駄に終わったか」
「龍谷としたら、4番の打席の前にせめてもう1人ぐらいは貯めておきたかっただろうな」
「それでも、ここで清村弟にホームランが出れば一気に4点差だ。満塁ホームラン1本で同点に追いつける点差になれば、まだまだ龍谷にも逆転の目が見えてくるぞ」
「いやだから、もう龍谷の負けは決まってるんだってば」
7回表。2アウトランナー1塁。打席に上がる清村弟。ここでいつもなら、左の細田弟に代わって右の細田兄に交代する場面なのだが、この場面ではなぜか細田弟がマウンドに残っていた。
「あれ?」
「なんで交代しないんだ?」
「兄貴の方が怪我でもしたとか?」
「さっき投げてた時はそんな異変感じなかったけどな」
「あっ、そうか!」
ここで、キャプテンの星が何かに気付いたように声を上げた。
「交代しないんじゃなくてできないんだよ。この回、細田弟は最初清村兄に投げてヒットを打たれたあと、2番の右バッターの時に1度細田兄と交代している。そして3番の左バッターの時に再び登板した。この時点でもうピッチャー以外の他のポジションに移ることはルール上禁止されている」
「そう言えばキャプテン、去年の甲子園決勝で万場兄弟が出てきた時にそんなルールがあるって話してましたね」
「そうか。じゃあ今まではたまたま出塁を許してなかったからああいう継投ができていただけで、1人でも出塁を許した途端、今回みたいにあの継投策が使えなくなる可能性があるってことか」
「龍谷打線がたまたま、右と左が交互に続く打順だったこともうまく幸いしたな」
「なるほど。なら明日の決勝戦、うちの打線も右と左が交互に続くジグザグの打順でオーダー組みましょうよ」
「おっ、それナイスアイディアだな」
「監督、どうですか?」
「お前ら、肝心なことを忘れているぞ」
「肝心なこと?」
「なんだろう?」
「うちのチームにはな、レギュラーの左バッターが星と安達の2人しかいなんだよ」
「ガーン!」
「確かにそうだった」
「ベンチ入りしてる左バッターを無理やり先発で出せば、一応ジグザグ打線も作れなくはない。ただし、それでは確実にうちの攻撃力も守備力も戦力ダウンしてしまうからな。それと、例えこの作戦で右対左、左対右のような対戦機会を作れたとこで、そう簡単に打てるほど細田兄弟は甘くないぞ。それが例え、清村弟クラスのバッターだろうがな」
「ストライク!」
テレビ画面には、ノーボール2ストライクで追い込まれている清村弟の姿が映っていた。
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