安達弾~打率2割の1番バッター~ 第27章 夏の甲子園千葉大会準決勝 龍谷千葉VS三街道⑮

 内角低めの絶妙なコースに投げ込んだ細田弟のカーブを、清村兄はゴルフのようなスイングで器用にすくい上げると、レフト前ヒットにした。

「龍谷にもやっと初ヒットが出たか」

「でも今更初ヒットが出たところで」

「もう手遅れだろうな」

 そんなことを船町北高校の部員達が言っている中、テレビ画面にいる清村兄は大胆な行動に出た。

「あれ?」

「清村兄のリード、大きすぎじゃね?」

 清村兄は、いつものリードよりも1メートル近く大きなリードを取っていた。

(6点差も付けられているここから逆転するためには、最低でもこの回で2点、できれば4点以上は返しておきたい。そのためには、4番の総次郎の前に1人でも多くのランナーを貯めておくことが必須。今俺ができることと言ったら、少しでも大きなリードでピッチャーを挑発して、たくさん牽制球を投げさせて集中力を削ぐことくらいだ)

「あんなにリードを取らなくたって、あいつの足なら盗塁は簡単にできるはず。恐らくはリードで相手投手に揺さぶりをかけることが目的だろうな」

「相手バッテリーがそれを理解できていたとしても、いざあれだけのリードを取られたら牽制の1つでも入れない訳にはいかねえよな」

「あれ? 交代した細田の兄貴、牽制しないまま初球を投げたぞ」

「ストライク!」

「2球目も投げた」

「ボール!」

「あのリードをガン無視して、バッターの勝負だけに集中しているみたいだな」

「もったいねえな。俺だった絶対牽制で刺してやるのに」

「おい川合、牽制下手くそなお前がよく言うよ」

「いやいや、いくら俺が牽制下手でもあのリードなら刺せますって」

「いや、多分無理だろうな。恐らく清村兄の頭にはここから盗塁しようなんて考えは1ミリもなくて、帰塁だけに神経を全集中しているはずだ」

「きっと三街道のキャッチャーもそれをわかっていて、敢えて無視しているはずだ。そしてその選択は、結果から言うと正しかったみたいだな」

 船町北高校の部員達があれこれ言っている間に、龍谷打線はいつの間にか2番、3番と連続三振で抑えられていた。