安達弾~打率2割の1番バッター~ 第27章 夏の甲子園千葉大会準決勝 龍谷千葉VS三街道⑭

 山田が投げた初球のカットボール。外角低めに決まった136キロのその球を、角田はフルスイングで完璧に捉えた。レフト方向に猛烈な勢いで伸びていく打球は、観客席の上段にまで届く文句なしのグランドスラムとなった。

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 龍谷千葉 000000
 三街道  000114

「あーあ。やっぱり打たれたか」

「交代すれば良かったのに」

「鈴井監督、いくらエースは下げづらいからってやっぱりそれで負けたら意味ないっすよ」

「それは結果論だろ。事実、今投げたカットボールは悪い球じゃなかったろ。渾身の1球をエースが投げて、それでも打たれてしまった。これは普通に相手が凄かったと認めるしかない。例えお前たちが言うように村沢に交代させてたとしても、同じように打たれただろうさ」

「確かにそうですね。今日の角田はそれくらい神懸ったバッティングをしている。このホームランで、大会のホームラン数も清村弟と並んだか」

「カーン!」

「アウト! スリーアウトチェンジ!」

「6回を終えて6点差か。これでもう試合は決まったようなもんだな」

「いつもの龍谷打線なら、6点差くらいどうにでもできそうな雰囲気がありますけど、初回からずっと細田兄弟にいいようにやられている今日の龍谷打線には怖さを感じませんからね」

「ていうか事実、試合はもう決まってるんだけどね」

 7回表。船町北高校の部員達から好き勝手言われている龍谷千葉だったが、少なくともこの回の先頭バッター清村兄は、まだまだ龍谷千葉の勝利を諦めてはいなかった。

(6点差くらい、うちの打線ならひっくり返せるはずだ。だがそれにはまず、リードオフマンの俺が何としても塁に出ないとな)

 マウンドには、左バッターの清村兄に対して、左ピッチャーの細田弟がマウンドに上がる。

(細田弟、お前と2打席勝負してわかったことがある。確かにお前は優秀なピッチャーだ。変化球の持ち球が豊富で、キレやコントロールも申し分ない。おまけにストレートも最速150を超えるときたもんだ。弱点らしい弱点が見当たらない一流のピッチャーと言えるだろう。だがな、俺は今まで船町北の黒山や大阪西蔭の千石なんていう超一流のピッチャーと戦ってきたんだ。そして将来プロの世界でこいつらにリベンジするためには、一流止まりのお前なんかに負ける訳にはいかねえんだよ!)

「カキーン!!」