安達弾~打率2割の1番バッター~ 第26章 夏の甲子園千葉大会準決勝 船町北VS千葉修道④
1回裏2アウトランナーなしの場面で打席に上がった安達は、心の中でこう念じていた。
(勝負しろ勝負しろ勝負しろ勝負しろ……)
去年の夏の大会で大活躍して以来、例えランナーなしの場面でもまともに勝負してもらえないまま歩かされてしまう場面が多かった安達は、いつの間にか打席に立つ時にはいつもこのように念じるのが日課になっていた。
そんな安達に対する中原の初球は、しっかりと腕を振り切って投げられた三振を取りに行くフォークボールだった。真ん中よりも少し高めの位置から、急激な落差でストンと落ちるそのボールは、地面スレスレの位置に構えたキャッチャー小林のミットに収まった。
「ストライク!」
このストライク判定に、船町北ベンチは大激怒していた。
「はぁ?」
「あれがストライクだって?」
「審判どこに目付けてんだよ!」
そんな選手達を、鈴井監督は冷静に宥めた。
「おいお前らやめろ! 確かに抗議したくなる気持ちはわかる。キャッチャーミットの位置だけを見れば明らかにボール球だからな。だがなんせ、あの凄まじい落差で落ちるフォークボールだ。ギリギリストライクゾーンにかすってから落ちたと判断されても仕方がないだろう。だがあれをストライク判定されてしまうと、この先のうちの攻撃はかなり厳しくなるな」
(ラッキー。振ってくれなくて1ボールだと思ったが、これをストライクにしてくれるなら今後の配球も楽になるぜ)
小林は続けてもう1球、さっきと同じフォークボールを要求した。中原が投じた球は、さっきよりも内角気味に、そして高さはほぼ同じコースに投げられた。
「ストライク!」
(よし、今のも微妙だったがストライクを取ってくれた。今日はツキも味方してくれているぜ。これで早くも追い込めたな。ここは1つ、高めにストレートでも挟んでおくか)
高めに外すストレートのサインを出した小林だが、中原はそれに首を振った。
(3球で手っ取り早くけりをつけたいってか。できればもっと慎重に攻めたいところだが、明日の決勝戦に向けて無駄球を減らすためにも、ここは中原の希望通りの配球でいきますか)
小林は三度三振を取りにいくフォークボールのサインを出し、中原は満足そうに頷いた。大きく振りかぶって、3球続けて投げられたフォークボール。しかし、春季大会でのリベンジを果たすためにと力が入り過ぎたのか、今回のフォークボールは若干高めに浮いていた。当然、安達はそれを見逃さずに打ちにいった。しかし、安達のバットは球にかすりもしないまま空を切った。
「ストライク! バッターアウト!」
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千葉修道 0
船町北 0
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