安達弾~打率2割の1番バッター~ 第26章 夏の甲子園千葉大会準決勝 船町北VS千葉修道⑱
「ストライク!」
(あっぶねー!)
再び心の中でそう嘆く西郷吉田バッテリー。一見するといつ打たれてもおかしくないような状況なのだが、打席に立つ野宮は逆に戸惑っていた。
(甘いコースは捨てて外角に絞って待っていたのに、まさかの2球連続で真ん中の甘いコースにクソみたいな球がきやがった。これは一体どういうことだ? ついにゾーンが切れたってことなのか? それとも、こちらの狙いを読んで敢えて裏をかいた相手の戦術か? うーん……)
そうこう悩んでいるうちに、吉田が3球目を投げ込もうとしていた。
(今度こそちゃんと外に外してくださいたい)
西郷がボール2つ分外れた外角にミットを構えながらそう願うも、吉田が投げたストレートはミットの位置よりもボール2つ分中に入ってきた。球速はこの日吉田が投げたストレートの中では最も遅い126キロ。おまけに球のキレも今一つだった。
(げっ! でもコース的には外角ギリギリたい。これならワンチャン……)
西郷がそう思ったのも束の間、野宮のフルスイングが容赦なく吉田のストレートを捉えた。
「カキーン!!!」
(やられたばい!)
(やっちまった!)
西郷と吉田は打たれた瞬間、ホームランを覚悟した。打った野宮も、ホームランを確信したのか走らずにゆっくりと歩きだした。
(くっそーやっぱり川合に交代させるべきだったか。さっきまでは吉田と心中を覚悟していたが、ここにきて急に調子が悪くなった感じだな。今からでも遅くない。川合に交代させよう)
鈴井監督が吉田を諦めて、川合に交代させることを決断したその時、審判から予想外のコールが聞こえてきた。
「アウト! ゲームセット!」
(えっ?)
鈴井監督が慌ててグラウンドの方を確認すると、外野フェンスの数メートル手前でセンターの星がフライをキャッチしていた。野宮が走らずにゆっくりと歩いていたのは、ホームランを確信していたからではなく、外野フライになることを確信していたからだった。
(最後まで外角狙いを貫けていれば、間違いなくホームランを打てた。でも、最初の2球続けてきた甘い球が、俺の覚悟を鈍らせた。そのせいで、最後のスイングにほんの数ミリの誤差が生まれてしまった……)
123456789 計
千葉修道 000000124 7
船町北 00000035✕ 8
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