安達弾~打率2割の1番バッター~ 第26章 夏の甲子園千葉大会準決勝 船町北VS千葉修道⑯
9回表2アウトランナーなし。点差は5点。龍谷千葉にとっては絶体絶命なこの状況の中で、伊藤監督はある作戦を思いつき、選手達に伝えた。
「吉田は球数から見てもそろそろ崩れてくれるかと思ったが、崩れるどころかさらに制球もキレも安定感を増している。今、吉田はいわゆるゾーンと呼ばれる状態に入っていると思われる。恐らくこれからも甘いコースに球がくることはほとんどないだろう。ならば、それを逆手に取って真ん中の甘い球は捨てろ。内角か外角、自分の得意な方に絞って最初から厳しいコースにしか投げてこない前提で打ちにいけ!」
「はい!」
土壇場で考えた伊藤監督のこの作戦は、見事にハマった。
「カキーン!!」
「カキーン!!」
「カキーン!!」
5番石塚、6番滝村、7番野島が3連続ヒットで出塁し、満塁のチャンスを作ると……。
「カキーン!!」
8番小林のセンター前ヒットで1点を加え、尚も満塁。
123456789
千葉修道 000000121
船町北 00000035
1発出れば同点に追いつくというこの場面で、伊藤監督は9番ピッチャー原口に代わって四宮を代打に出した。ちなみにこの四宮、春季大会で吉田と対戦した際にもピッチャーに代わって代打で出場し、かなりベース寄りの位置に立って内角にきた球に当たりにいき、デッドボールで出塁した経験がある。
打席に立った四宮は、あの時と同じようにベース寄りの位置に立ってバットを構える。これを見たキャッチャー西郷は、頭を悩ませていた。
(あの時と同じように内角を厳しく攻めたら、またデッドボールで出塁されてしまうたい。ばってん、これだけベース寄りで待ち構えている相手の外角を攻めるのは危険過ぎるたい。一体どうしたら……)
困った西郷はここでふと吉田の方を見ると、吉田は満塁のピンチを背負っているとは思えないくらい堂々とした立ち振る舞いをしていた。
(今日の吉田先輩なら、特に9回に入ってからさらに調子が上がった今の吉田先輩なら、きっとデッドボールにはならないギリギリのラインで内角を攻めてくれるはずたい!)
こうして西郷は、覚悟を決めてストレートのサインを出すと、内角にミットを構えた。
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