安達弾~打率2割の1番バッター~ 第26章 夏の甲子園千葉大会準決勝 船町北VS千葉修道⑮
(うわーこのスコア嫌だな。頼む、あともう1点だけでいいから点を奪ってくれ)
「カーン!!」
そんな吉田の願いも虚しく、打席に立っていた6番佐々木は内野フライを打ち上げてしまい、吉田にとって縁起の悪い3対8というスコアのまま9回のマウンドに上がることになってしまった。
(やべーなんか急に緊張してきたんだけど。どうせなら3対7とかの方がまだましだったな)
そんなことを考えながら初球を投げようとしていた吉田だったが、その刹那、あることを思い出した。
(そういえばあの日って、9回ノーアウトじゃないくて1アウトから登板したよな? てことは、あの時とは条件が違う。つまりまだ、緊張する必要はないってことだ)
そんな謎理論を瞬時に構築した吉田は、良い感じに緊張がほぐれ、それが結果的に素晴らしい投球へと繋がり、3番の立花を三球三振に仕留めてみせた。しかし、ここから再び吉田に緊張が襲ってきた。
(やべーこれで9回1アウトか。あの時と完全に同じ条件が揃ってしまった。ダメだ。あの日のトラウマが蘇ってくる)
そしてここで、比嘉から内角にスライダーのサインが出された。そのサインに頷いた直後、吉田はさらに余計なことを思い出してしまう。
(そうえばあの日の最初のバッターに投げた球も、内角へのスライダーだった。そして甘く入ったスライダーをレフト前ヒットにされて、そこからあの悲劇が始まったんだった……)
やっぱりサインを変えてもらう。そう思った吉田だったが、時すでに遅し。吉田はすでに投球動作を始めてしまっていたため、もうスライダーを投げるしかない状況まで追い込まれていた。
(こうなったらもう投げるしかないか)
そう覚悟を決めた刹那、吉田はある重要なことを思い出した。
(そういやあの日、サヨナラ負けをしたってことは9回の裏だったよな? そして今は9回の表。てことは、あの時とは条件が違う。なんだ、全然大丈夫じゃん)
こうして何とか再び平常心を取り戻した吉田は、4番の真山に対しても際どいコースばかりを責める完璧な投球を続た。そして6球目。
「ストライク! バッターアウト!」
外角高めに投げられたこの日最速となる140キロのストレートで、真山から2者連続となる空振り三振を奪った。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません