安達弾~打率2割の1番バッター~ 第26章 夏の甲子園千葉大会準決勝 船町北VS千葉修道⑪

 安達が打った瞬間、中原は打球の行方を見もしない内にガックシと肩を落とした。推定飛距離150メートル。打った瞬間に入ったとわかる強烈な打球が、ライト方向の場外まで飛んでいった。

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 千葉修道 0000001
 船町北  0000001

「うぉおおおお!!!!」

 高校生離れした規格外の1発に、観客達は大いに沸いた。1対1の同点に追いついただけなのにもかかわらず、まるで逆転サヨナラ勝ちを決めたかのような騒ぎようだった。

「良くやった安達!」

「ナイスホームラン!」

「俺は信じてたぞ!」

 さっきまでお通夜状態だった船町北ベンチも、打って変わって大盛り上がりを見せていた。

(くそっ! 1発打たれただけで、一気に流れを持っていかれた。1打席目も2打席目も完全に抑え込めていたと思ったのに、ここにきて完璧に攻略されるとはな。こんなことになるなら、やっぱり敬遠するべきだったか。でもまだ同点に追いつかれただけだ。取り合えずこの回はさっさと次のバッターを抑えて、気を取り直していこう)

 キャッチャーの小林はそんなことを考えながら、次の打席に上がった山田の初球に、三振を取りにいくフォークボールのサインを出した。

(安達に打たれはしたものの、さっきのフォークは悪くなかった。まだまだイケるよな、中原)

 中原は小林のサイン通りのフォークボールを投げようとしたが、ボールはさっきまでのようなストンとした急激な変化を見せず、なだらかに落ちていった。

「カキーン!!!」

 山田の打球はセンターとレフトの間を抜ける痛烈な当たりのツーベースヒットとなった。

(今のフォーク、落ちてはいたが明らかにキレが悪かった。初回からフォークボールを多投させてきた疲れが出てきたか? それとも、安達に打たれた精神的なショックか? もしくはその両方か? 取り合えず、次の5番石川相手には初球はストレートでいってみるか)

 しかし、この小林の判断が奇しくも、最悪の結果を呼ぶこととなった。

(安達も山田も、よく中原のフォークボールを打ったな。俺には全く打てる気がしないよ。だから俺は、全球ストレートがくると思って一か八か全力で振り抜いていくぜ)

「カキーン!!!」

 ストレートに山を張って初球から全力で振り抜いていった石川の打球は、1番ホームランになりやすい打球角度と言われている30度でライト方向に飛んでいった。さらにこの瞬間、球場にはライト方向に風速10メートルを超える追い風が吹いていたこともあり、打球はどんどん伸びていった。

(頼む! ライトの頭を超えてくれ!)

 そう願いながら必死に走っていた石川だったが、打球はライトの頭どころかライトスタンドをも超えていった。

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 千葉修道 0000001
 船町北  0000003