安達弾~打率2割の1番バッター~ 第25章 開幕! 夏の甲子園千葉大会⑥

 2017年7月24日。夏の甲子園千葉大会準決勝当日。船町北ナインは調整練習で軽く汗を流した後、バスで球場へと向かっていた。その最中でのこと。

「えっ!」

「マジかよ!」

 選手達が驚きの声を上げる様子を見て、鈴井監督が一声かける。

「お前らどうした? 何を騒いでいる」

「監督、あの絶対王者龍谷千葉が……」

「三街道に負けそうなんです」

「今は目の前の試合に集中しろとあれだけ言ったのに、勝手に龍谷と三街道の試合をチェックしてやがったのか」

 鈴井監督はそう怒りながらも、自分も我慢できずにスマホで試合のスコアを確認した。
 
      123456789 計
 龍谷千葉 00000020  2
 三街道  00011411  8

(2対8だと……あの龍谷千葉が、こんな一方的なスコアで負けるというのか。いや、まだ9回の攻撃が残っている。6年連続で甲子園出場を決めているあの絶対王者龍谷が、このまま簡単に終わる訳が……)

 しかしその直後、情報が更新された。

      123456789 計
 龍谷千葉 000000200 2
 三街道  00011411✕ 8

(あの龍谷千葉が……負けた。もちろん、三街道の戦力を考えればその可能性があることは頭では理解していた。でも心のどこかでは、あの絶対王者龍谷が簡単に負けるわけがないと思い込んでいた。それがまさか、コールドゲーム寸前の、こんな圧倒的なスコアで負けてしまうとは……三街道、恐るべし)

 そんな感想を抱いたのは、鈴井監督だけではなかった。去年の夏の千葉大会決勝戦、今ではプロになったあの黒山先輩が投げても船町北が1対0で負けてしまったあの龍谷千葉相手に6点差で快勝した三街道を見て、選手達は明らかにテンションが下がっていた。

(三街道強過ぎだろ……)

(こんなチーム相手に、俺達は勝てるのか?)

(今年も甲子園出場は無理そうだな)

 静まり返るバスの車内。
 
(おいおいこれから大事な準決勝だってのに、何だよこの重い空気は。こんな時、いつもなら安達や比嘉や川合あたりが良い意味で空気を壊してくれるんだが、今日は一体何をしているんだ?)

 鈴井監督がこの3人を探すと、安達と比嘉と川合は1番後ろの席で3人揃ってぐっすりと熟睡していた。