安達弾~打率2割の1番バッター~ 第25章 開幕! 夏の甲子園千葉大会⑤

 2017年7月23日。夏の甲子園千葉大会の準決勝前夜。船町北高校野球部のミーティングが行われていた。

「明日の準決勝千葉修道戦だが、吉田に先発してもらう」

 鈴井監督からそう告げられると、吉田は顔をうつむかせて体を震わせていた。

「おい吉田どうした? もしかして、春季大会で打ち込まれたトラウマでも思い出してビビってんのか?」

 吉田は顔を上げると、二ヤリと笑顔を見せて言った。

「嬉し過ぎて武者震いしているだけですよ。あの時の借りを、やっと返せるってね」

「それは頼もしいな。期待しているぞ。とは言っても、相手はあの千葉修道だ。当然ある程度の失点は覚悟しておかんとな。展開によっては、途中から中継ぎで川合にも投げてもらうかもしれん。だから川合、一応準備しておくように」

「任せといてください。吉田先輩、いつでも交代してあげますからね」

「うるせえよ。お前なんかにマウンドを任せるくらいなら、最後まで1人で投げ切ってやる」

「吉田、その意気だ。俺もできることなら、川合を明日の試合には出したくないからな」

「吉田先輩、それに監督までひどいっすよ。どんだけ信頼されてないんすか俺」

「しょうがないだろ。あれだけフォアボール出しまくりのノーコンピッチャーを信頼する方がどうかしている。信頼されたいなら、そのノーコンをどうにかするんだな」

(それを言われると、何も言えねー)

「さて、明日の準決勝の鍵を握るのは先発の吉田はもちろんだが、いかに野手陣が点を取るのかにかかっている。川合を中継ぎで出さなきゃいけなくなるような展開を避けるためにも、できるだけ大量得点をして吉田を楽に投げさせてやれるように頑張ってくれ」

「はい!」

「明日の準決勝は午後からだが、同じ球場の午前中には龍谷千葉対三街道という決勝の相手が決まる重要な試合がある。本当は早めに行って生で試合の様子を見たいところだが、それよりも明日の準決勝を確実に勝ち抜くことの方が大事だ。明日は午前中のぎりぎりまでうちのグラウンドで調整練習をしてから球場に向かう。今は目の前の準決勝のことだけを考えろ。いいな!」

「はい!」