安達弾~打率2割の1番バッター~ 第24章 夏の甲子園への秘策⑨

 ダブルヘッダーの練習試合を終えた夜。吉田はマネージャーに頼んで撮影してもらったこの日の練習試合での自分のピッチング映像を見ながら、1人反省会をしていた。そこに突如、山田がやってきた。

「おい吉田、今日のピッチングも散々だったな」

「何だよ山田、わざわざ文句言いにきたのか。ほんとお前は性格が悪いな」

「ちげえよ。年下の西郷どんははっきり言いづらいと思ってな。わざわざお前と元バッテリーだった俺が忠告しにきてやったんだよ。変化球の改良なんてもう止めちまえってな」

「何だよ藪から棒に」

「夏の大会の予選までもう1カ月ちょっとしかないんだぞ。それなのに変化球は良くなるどころか、制球が効かなくなって悪くなる一方だ。このままだとフォームまで崩して取り返しがつかなくなるぞ。悪いことは言わないから、前の変化球に戻すんだ」

「確かにお前の言う通りかもしれないな。今日の映像を見て、自分でもそう思ったよ。だけどな、前の俺に戻ったところで、千葉修道レベルの学校には全く通用しない。それじゃあ意味ねえんだよ!」

「お前さ、あの時打ち込まれて逆転されたこと、気にし過ぎじゃねえか? あの日のお前は緊急登板で変化球の制球も安定していなかったし、精神的にも不安定だった。だがもしもお前本来の力を出せていたら、あそこまで打ち込まれることはなかったと思うぞ」

「確かにお前の言うことは分かる。本来の力を出せていたら、失点はしたかもしれないが、逆転まではされなかっただろうな。だがそれでも、もしも1試合通して投げていたら、きっと二桁得点は余裕でされていたはずだ。それくらいあいつらのバッティングは半端なかった。そしてその千葉修道に勝った龍谷千葉や、その龍谷千葉と互角に戦った三街道は同レベルかそれ以上の打線と考えていい。この3校は他の高校と比べても実力が飛び抜けている。俺達が本気で甲子園出場を目指すとなると、恐らく準決勝と決勝ではこの3校の内2校と連戦になる確率が高い。そしてその連戦を連勝しなければ、俺達は甲子園に行けないんだ。つまり、比嘉が投球制限で連投出来ない以上は、最低でも俺が準決勝か決勝でこの3校に勝てる投球をしなければならないんだ。だから、俺はもう過去の俺には戻らない。例え可能性が低かったとしても、進化した変化球を投げられるようになって、何とかあの3校の打線相手でも勝負できるピッチャーへと成長しなければならないんだ」

「なあ吉田、お前勘違いしてねえか? 確かに俺は前の変化球に戻せとは言ったが、過去のお前に戻れとは言っていないぞ」

「回りくどい言い方しないで、ハッキリ言えよ」

「つまりだな、変化球は前のままでいいから、その分ストレートを改良してみたらどうだ?」