安達弾~打率2割の1番バッター~ 第24章 夏の甲子園への秘策⑦

 2017年6月10日。鈴井監督が比嘉と川合の継投策を思いつき、比嘉、川合、そして安達にそれぞれ他のポジションの守備練習をやらせるようになってから約半月が経過していた。

 この日船町北高校野球部は、午前と午後にそれぞれ東京と埼玉からくる2チームとのダブルヘッダーとなる練習試合が予定されていた。

「今日の最初にやる試合だが、先発は比嘉!」

「はい!」

「そして比嘉が1巡投げ終わったら、今度は川合に投げてもらい比嘉はライトへ、ライトの山田はレフトへ、そしてレフトの滝沢はベンチに下がってもらう。そしてまた川合が1巡投げ終わったら、再び比嘉がマウンドに上がり、川合はファーストへ、ファーストの安達はレフトへ、レフトの山田はライトへと移動してもらう。そしてまた比嘉が1巡投げ終わったら、比嘉はライトへ、ライト山田はレフトへ、レフト安達はファーストへと、まあこんな感じで動いてもらう予定だ。この継投策は、今度の夏の大会でうちが甲子園に行くためのとっておきの秘策だからな。みんな早く慣れてくれよ」

「はい!」

「そして午後からやる試合では、吉田が先発で最後まで投げ切ってもらう。ここ1カ月くらい変化球の改良を色々試しているみたいだが、今日はあまり勝ちを意識し過ぎずに、相手を実験台にするつもりで自由に投げてみろ」

「はい!」

「おっ、早速相手の高校がきたみたいだな。最初の相手は東武蔵野高校。去年の夏の西東京大会ではベスト8、そして今年の春季大会ではベスト4と中々強いチームだ。心して試合に臨めよ」

「はい!」

 こうして始まった船町北の練習試合1試合目。

 船町北高校スターティングメンバー

 1 星(中)
 2 野口(二)
 3 安達(一)
 4 山田(右)
 5 佐々木(遊)
 6 滝沢(左)
 7 石川(三)
 8 西郷(捕)
 9 比嘉(投)

 先発の比嘉は3回までを6三振を含むパーフェクトに抑えると、続く川合も4回表をフォアボールを2つ出しながら無失点に抑える。しかし5回表。ヒット1本とフォアボール2つを出し、2アウトながら満塁のピンチを作ってしまうが、ここで丁度打者1巡回って再びマウンドに上がった比嘉が三振でピンチを切り抜ける。そして続く6回7回とそれぞれ1本ずつヒットを打たれながらも無失点に抑えると、再びマウンドに上がった川合が8回9回とそれぞれ2つずつフォアボールを出しながらも何とかピンチを切り抜け試合終了。

      123456789 計
 東武蔵野 000000000 0
  船町北 10120101✕ 6

 比嘉は5回と3分の1を投げて四死球0被安打2奪三振8の無失点、そして川合も3回と3分の2を投げて四死球8と制球に苦しみながらも被安打1奪三振4の無失点と、初めて試した比嘉と川合の継投策は完封勝利という理想的な結果に終わった。しかし同時に、鈴井監督はこの継投策の弱点にも気付いていた。