安達弾~打率2割の1番バッター~ 第24章 夏の甲子園への秘策⑤

 セカンドの野口、ショートの佐々木、サードの石川、そしてキャッチャーの西郷にも協力してもらいながらの、川合のファースト守備練習が始まった。

 セカンドゴロ、ショートゴロ、サードゴロ、そしてキャッチャーゴロをランダムに打っていく鈴井監督と、それらの球を全てファーストに送球していく内野陣。最初の数球こそ、慣れないファーストミットに戸惑い球をこぼすこともしばしばあった川合だが、しばらく続けている内にほとんど球をこぼさなくなってきた。

(思った以上に捕れてるな。190を超える長身の長い手足をうまく生かして、送球がズレた時でもしっかりキャッチできている。川合がマウンドを離れた時の守備位置は、ファーストで決まりだな。だがそうなると、その間安達を外さなければならないな。打線の要の安達を交代させる訳にはいかないし……安達にも他の守備についてもらうしかないな)

「川合、お前はファーストに決定だ。これからは毎日内野の守備練習にも参加してもらうからな。シチュエーションに応じた細かい守備についても夏までにはしっかり覚えてもらうぞ」

「はい! 任しといてください」

「あと安達を呼んできてくれないか? この時間なら多分、ピッチングマシン相手に打撃練習でもしてることだろう」

「わかりました」

 川合に言われてグラウンドにきた安達に、鈴井監督はいきなり言った。

「安達、ファーストに加えて今日からは外野の守備もやってみてくれ」

「えっ! 外野ですか。なんで急にそんなことを?」

 鈴井監督は安達にこれまでの経緯を説明した。

「……という訳で安達、外野の守備をやってはもらえないだろうか?」

「別にいいですけど、つい1年ちょっと前までド素人だった俺が、外野の守備なんてあと1カ月ちょっとで出来るようになりますかね?」

「取り合えずやってみせてくれ。川合以上に酷そうだったら、その時は一旦白紙に戻すから安心してくれ」

「わかりました」

 鈴井監督に言われるがまま、レフトの守備位置につく安達。

(今年の夏、うちの野球部が甲子園出場を狙えるかどうかが、この安達の外野守備にかかっている。果たして、安達はどの程度守れるだろうか?)