安達弾~打率2割の1番バッター~ 第24章 夏の甲子園への秘策③

 2017年5月25日。この日鈴井監督は寝不足だった。とは言っても、それは決して日付が変わるまで猫の動画を見ていたからではない。結局その後もう一度、大阪西蔭がやっている継投策を船町北の野球部でも活用できないかと考えていたら朝を迎えてしまったからだった。

「ふぁ~あ」

 この日26回目のあくびをする鈴井監督。しかしこの徹夜のおかげで、鈴監督はある画期的な継投法を思いついていた。

「比嘉! 川合! ちょっと来てくれ」

 2人に徹夜して考えた作戦を説明する鈴井監督。

「夏の大会まであと2か月を切ったが、恐らく比嘉の球数制限が解除されることはないだろう。そこで問題となるのがお前達2人の起用法だ。80球の球数制限がある比嘉はもちろんだが、四球を連発して球数が多くなりがちな川合も、恐らく1人で完投するのは難しいだろう。そこで俺は考えた。まずは最初に比嘉が先発で打者一巡に投げる。その後一旦他の守備位置を守ってもらって、次の一巡を川合に投げてもらう。そしたらまた比嘉に一巡投げてもらって、その間川合は他の守備位置を守ってもらう。これを試合が終わるまで続ける。とまあこんな感じの起用法を考えているだが、2人はどう思う?」

「出来れば1人で完投したいっすけど、今の制限がある状態じゃ無理っぽいですし……仕方ないっすね」

「俺は球数制限とかないんで、1人で完投できますよ。200球だろうが300球だろうがいくらでも投げてやりますよ」

「馬鹿野郎! そんなに投げられる訳ないだろうが! ていうかお前みたいな荒れ球ストレート1本じゃ弱小校相手ならともかく強豪校相手には完投する前に必ず捉えられるだろう」

「確かに……」

「そしてそれは比嘉も同様だ。お前は球数制限以外に140キロ以上の球を投げてはいけないという球速制限までされている。つまりあの150キロを超える落ちるストレートは当然封印しなければならない。となると普通のストレートと浮き上がるストレートの2種類だけで勝負しなければならなくなる。お前の実力ならそれでも大抵の相手ならそこそこ通用するだろうが、龍谷千葉や三街道、そして一度対戦した千葉修道とかが相手となるとやはり不安が残る」

「そうっすね……」

「だがお前ら2人が打者一巡ごとに交互に投げるとなれば話は別だ。キレの良い比嘉のストレートの球筋を覚えたと思ったら、今度は比嘉とは正反対の棒球で荒れ球の川合のストレートに対応しなければならない。そして川合のストレートの球筋を覚えたと思ったら、また正反対のストレートを投げてくる比嘉と対戦しなければならない。これは対戦相手からしたら相当厄介だぞ」