安達弾~打率2割の1番バッター~ 第24章 夏の甲子園への秘策⑬

2021年10月2日

 2017年6月18日。昨日の三松高校との練習試合に続いて、この日は今年の栃木の春季大会で準優勝した強豪栃木西山高校との練習試合が行われていた。この日の先発吉田は、試合前にキャッチャーの西郷にあるお願いをしていた。

「なあ西郷どん、今日の配球だけどさ、ストレート中心にしてくれないか?」

「了解しましたばい」

 吉田からの要望を受けて、いつもは7対3くらいで変化球中心の配球をしていた西郷だったが、この日は逆にストレートを7の割合にして配球した。

「フォアボール!」

 先発の吉田はストレートのコントロールが安定せずいきなり先頭打者にフォアボールを与えると、その後もストレートが安定せず、4回までの間に四死球7の5失点と苦しい立ち上がりだった。しかし、5回以降はストレートの制球がやや安定し、また以前の投げ方に戻して制球が安定した変化球も効果的に決まり始め、無失点行進を続けた。

      123456789 計
 栃木西山 121100002 7
  船町北 201020102 8

 最終回の9回こそ疲れで再びコントロールが乱れてしまい2点を追加され逆転されてしまったものの、その裏に安達の逆転サヨナラツーランホームランが飛び出し、吉田はこの日晴れて勝利投手となった。

「吉田先輩、ストレートの投げ方変えましたばいか?」

「おっ、気付いたか」

「そりゃ気付きますたい。明らかに前よりもキレが良くなってましたばい」

「そうかそうか」

(まだ練習を始めてから1週間しか経っていないが、早速効果が出始めたか。比嘉にわざわざ頭を下げて教えてもらった甲斐があったな)

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 今から丁度1週間前。比嘉にキレのあるストレートの投げ方を教えてもらう吉田。

「そうですそうです。そんな感じで中指と人差し指をくっつけた状態にして、あとはボールの縫い目に合わせてこんな感じで。そうですそうです」

「なるほどな。でもこの投げ方、コントロールがしづらいな」

「何度も投げている内に、自然とコントロールできるようになりますよ」

「そうか。じゃああとは練習あるのみだな。なあ比嘉、今日お前にストレートを教えてもらったお礼に、今度は俺が変化球の投げ方でも教えてやろうか?」

「いや、別にいいっす。変化球なんて投げる気ないっすから」

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(比嘉の野郎、人がせっかく親切に教えてやろうって言ってんのに、あんな断り方しやがって。本当ムカつく後輩だぜ)

「ちなみにだが西郷どん、今日の俺のストレート、比嘉のストレートと比べたらどのくらいのキレだった?」

「うーん……比嘉の通常のストレートが10で今までの吉田先輩のストレートが1だとすると、今日の吉田先輩のストレートは3くらいたい」

(ガーン……まだまだ頑張らないとダメだな)