安達弾~打率2割の1番バッター~ 第24章 夏の甲子園への秘策⑫

 2017年6月17日。あのダブルヘッダーの練習試合から丁度1週間が経ったこの日、船町北高校野球部のグラウンドでは練習試合が行われていた。相手のチームは、夏の東東京大会で3年連続ベスト8という安定した成績を残す古豪の三松高校。この日の先発は比嘉で、川合と打者1巡するごとに交代していくという例の継投策で試合に臨んでいた。

「カキーン!!!」

 先発の比嘉はいきなり先頭打者ホームランを許すと、合計5回を投げてホームラン2本を含む7本もヒットを打たれてしまい4失点を喫した。一方の川合は、合計4回を投げて8四死球と相変わらずのコントロールの悪さを見せるも、被安打は0本。何度もピンチを作りながらも奇跡的に失点を許さずに終わった。

     123456789 計
 三松  100002001 4
 船町北 31010101✕ 7

 試合終了後、比嘉は西郷と反省会をしていた。

「西郷先輩、新型の落ちるストレート全然ダメでしたね」

「今日打たれた7本のヒット中、4本が130キロ後半の落ちるストレートを、そして2本が120キロ前後の落ちるストレートを打たれたばい」

「つまり、もしも落ちるストレートを投げていなかったら、ヒットは1本だけで済んでいたってことっすよね?」

「そういうことになるたい」

「何であんなに打たれちゃうんですかね?」

「前に投げていた150キロの落ちるストレートも新型の落ちるストレートも、ストレートの回転数だけなら同じくらいだと思うたい。ばってん、150キロのストレートの方はスピードを出すために力を入れて投げる時に自然と回転軸が傾いてよりキレが悪くなっていたのに対して、今回のストレートは回転軸が普通のストレートと変わらないたい。そのせいで中途半端なキレの悪さになったストレートが、丁度バッターにとっては打ちごろの球になってしまった。おいどんの分析ではそんな感じたと思うたい」

「じゃあ今度からは、新型の落ちるストレートを投げる時は意識して回転軸を傾けるように練習してみますか?」

「いや、それは危険たい。そんな練習をしてしまったらフォームが崩れて、普通のストレートのキレに悪影響が出てしまうかもしれんたい」

「じゃあもう諦めるしかないっすね」

「いや、諦めるのはまだ早いたい。確かに新型の落ちるストレート、特に130キロ台後半の方は全く通用していなかったばい。でも120キロ前後の方はうまく打たれはしたものの、そこそこタイミングがズラされていたように見えたばい。だから今度はいっそのこと、さらに100キロぐらいまでスピードを落としたストレートにすれば、もっとタイミングをズラせて通用するかもしれんたい」

「それってもはや、落ちるストレートというよりもただのスローボールじゃないっすか?」

「確かに……」

「まあどっちでもいいや。少しでも投球の幅が広がって相手を抑える可能性が上がるなら、次はスローボールを試してみましょう」