安達弾~打率2割の1番バッター~ 第24章 夏の甲子園への秘策⑪
比嘉からキレのあるストレートの投げ方を教わろうと、吉田は比嘉の寮の部屋に行ってみたがそこにはいなかった。
(比嘉の奴、どこにいるんだ?)
寮の中をひたすら探し回っていると、食堂の片隅で西郷と何やら真剣な話し合いをしている比嘉を見つけた。
(何か白熱しているみたいだな。しょうがない。明日聞きに行くか)
「西郷先輩、そんなこと言わずに教えてくださいよ。どうしたらもっと相手を圧倒する投球ができますか?」
「何度聞かれても一緒たい。今日の投球は十分通用していたばい。何がそんなに気に食わないたいか?」
「だって、2本もヒット打たれたんすよ。しかも、三振も1巡目は6つ奪えたのに、2巡目の対戦では2つしか奪えなくて結構バットに当てられていた。あんなんじゃ全然満足できないっすよ」
(あの150キロ越えの落ちるストレートを封印して、しかも普通のストレートも140キロを超えないように加減しながらの投球であれだけだけ抑えられてるばってん、普通なら十分過ぎる結果だばい。なのにこいつは、現状に全然満足していないたい。なんという向上心。これだけ貪欲に成長を求めている後輩に、何か良いアドバイスでもしてやりたいばってん、これだけ制約がある中これ以上どうすれば……)
「あっ!」
「何かあるんですか?」
「たった今思いついたばい。今まで投げていたあの落ちるストレート、それを球速を落として投げてみたらどうたいか? 今の比嘉の持ち球は、130キロ台後半のストレートと120キロ前後の浮き上がるストレートの2種類のみ。でもそれプラス、130キロ後半の落ちるストレートと120キロ前後の落ちるストレートが加われば、球種が一気に倍になるたい。これだけ投げる球の選択肢が増えれば、よりリードもしやすくなるたい」
「そうか、その手があったか! 西郷先輩、めっちゃナイスアイディアじゃないっすか。早速今から練習してきます」
「何言ってるたいか! 今日投げたばかりなのにこれから練習なんて絶対ダメたい!」
「冗談っすよ。ちゃんと今日と明日は肩を休ませて、明後日から試してみます」
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