安達弾~打率2割の1番バッター~ 第24章 夏の甲子園への秘策⑩

「ストレートを改良ね……」

 山田のその言葉を聞いた瞬間、吉田は昔のことを思い出していた。

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(この人すげー!)

 吉田がまだ中学三年生だった頃、当時高校1年生だったのちの先輩となる黒山の投球を見て、吉田は感動していた。

(いつか俺も、こんな風にストレートでガンガン押していける黒山さんみたいなピッチャーになりたいな)

 当時、吉田のストレートはMAXで120キロが限界だった。しかし、どうしても黒山のようなストレートで勝負が出来るピッチャーになりたいと、遠投や筋トレなどとにかくガムシャラに球速を上げるためのトレーニングを積んでいった。

 それから1年後。船町北高校に進学した吉田は、黒山と同じチームに入って、憧れの黒山と一緒に練習をするようになったことで、黒山のようにはなれないという残酷な現実を思い知らされてしまった。

(今まで俺は精一杯努力しているつもりだった。でも黒山先輩は、そんな俺とは比べ物にならない量の練習をしていた。それで体格も俺より恵まれているんだから、俺なんかが黒山先輩のようなピッチャーになれるはずなかったんだ)

 それ以来吉田は、ストレートの球速を伸ばすことよりも、変化球に力を入れるようになっていった。

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「今更150キロのストレートを投げられるようになれってか。無理に決まってんだろ」

「確かにたったの1カ月で、急激な球速アップは見込めないだろう。だが、もっとキレのあるストレートを投げられるようになら、今からでも可能性はあるんじゃないか?」

「キレのあるストレート?」

「ストレートの質が上がれば上がるほど、必然と変化球も生きてくるようになるだろ?」

「確かにそうだが……たったの1カ月程度でそこまで伸ばせるか?」

「大丈夫だ。なんたってうちのチームには、キレッキレのストレートを投げられる末恐ろしい後輩がいるじゃねえか」

「なるほど……比嘉からあのストレートを教われと」

「後輩に指導してもらうなんて、お前のプライドが許さないか?」

「いや、プライド云々言っている場合じゃねえ。よし、善は急げだ。俺行ってくるわ」

 部屋を飛び出した吉田を見ながら、山田は1人呟く。

「全く、世話の焼けるエースだぜ」