安達弾~打率2割の1番バッター~ 第24章 夏の甲子園への秘策①

 2017年5月24日。船町北が千葉修道相手に7点差をひっくり返される逆転負けを喫してから、約1カ月が経過していた。船町北はあの敗戦以来、内野手の頭を超える強い打球を打つバッティング練習に力を入れていた。
 
 春季大会での活躍で、船町北は足を生かした機動力野球をしてくるという情報が広まったことにより、今後は対戦相手が前進気味の内野守備をしてくる場面が多くなることが予想される。そうなればおのずと、足を生かしたバントヒットや内野安打の数は減ってきてしまう。
 
 しかし、そんな前進守備の内野の頭を超えるような打球を打てるようになれば、相手も内野守備を定位置に戻さなければならなくなる。そうなればおのずと、足を生かしたバントヒットや内野安打の数も増えてくる、という訳だ。

 とまあこのように、攻撃面に関しては夏の大会に向けて着々と準備が進んでいたものの、守備の要である投手陣については課題が山積みだった。

 まずは比嘉流星から。1日80球以上の投球禁止、さらには連投や140キロを超える投球すらも医者から禁止令が出てしまったことにより、比嘉は満足な練習が出来ずフラストレーションが溜まっていた。しかし、ここで無理して怪我をしてしまったら元も子もないと、投球練習が出来ないフラストレーションを走り込みやバッティング練習に汗を流すことで何とか発散させていた。

 続いて吉田拓也。あの千葉修道戦以来、吉田は完全にスランプに陥っていた。今のままでは強豪校相手には通用しないと、今ある持ち球のスライダー、カーブ、チェンジアップの質をさらに上げるため試行錯誤を続けるも、思うような変化がしなくなったり制球が乱れたりなど悪循環か続いていた。

 そして最後に川合俊二。春季大会での実戦を経験して以来、3球に1回程度だったストライク率が5球に2回程度まで微妙に向上しつつあった川合だが、あれから1カ月経ってもこれ以上のコントロールの向上が見られずにいた。

 そんな3人を見て、鈴井監督は夏の大会に向けてこれからどう戦っていけばいいのか頭を悩ませていた。

(医者の話では、比嘉はまだまだ絶賛成長期中で夏の大会までに投球制限が緩和されることはなさそうだ。となるとその分、吉田と川合に頑張ってもらわなければならないが、吉田は未だにスランプ中だし川合も相変わらずノーコンだ。それでも打線が頑張ればそこらのチーム相手なら何とか勝てそうだが、龍谷千葉や三街道レベルになるとかなり厳しいだろうな。一体これから、どう戦っていけば良いのやら……)

 そんな悩みを抱えながらネットニュースを見ていると、春季関東大会の結果が報じられていた。