安達弾~打率2割の1番バッター~ 第23章 春季大会の結末③

「アウト! スリーアウトチェンジ!」

 角田の打球は丁度ライトの守備位置の真正面だったこともあり、ライトフライとなった。

(くそっ! あと一歩捉えきれなかった。ていうか今の球、少し変化したような?)

「山田先輩、ナイスピッチ!」

「全然ナイスじゃねーよ」

「確かにそうっすね。変化が小さすぎました。あれじゃあカットボールっていうよりも、村沢の癖球に近いかも」

「もっと精度を上げていかないとな」

(村沢から、エースの座を奪い取るためにも)

 5回以降、三街道は結局細田兄弟を1度も登板させず、代わりにタイプの違う3人のピッチャーを打者一巡ごとに投入していく継投で、9回までを何とか毎回1失点までに留めた。一方の龍谷千葉は、山田が粘りの投球でリードを守り切り、春季大会優勝を決めた。

      123456789 計
 龍谷千葉 112211111 11
 三街道  000501010 7

 優勝を決めた勝者の龍谷千葉と、敗者の三街道。しかしその試合終了後のミーティングの様子は、まるで正反対の様相を見せていた。まずは龍谷千葉のミーティングから。

「おいお前ら! 優勝できたからって調子に乗るなよ。今日の三街道戦、相手がはなっから勝ちにきていなかったのは細田兄弟を登板させなかったことからも見え見えだ。恐らく夏の大会に照準を絞って、うちに主力のピッチャー2人の投球をわざと見せないようにしたのだろうな。全く、小癪な真似をしやがる。しかもその細田兄弟なしでうち相手にこれだけの試合をしやがった。今日のスタメンを確認したが、4番の角田以外は全員1年生の新入部員だ。それも中学時代から全国のトップレベルで活躍してきたかなりの実力者揃い。きっとこれから向こう2年以上は、船町北でもなく千葉修道でもなく、三街道が県内ではうちの最大のライバルとなりそうだな。お前ら、これからさらに気合入れて練習しろよ!」

「はい!」

 一方三街道のミーティング。

「みなさん、今日は負けはしましたが素晴らしい試合でした。今年に入ってうちの野球部は様変わりしました。細田君の弟さんを始めとする、レベルの高い新入部員達が多く集まり、今までレギュラーだった2、3年生達から早くも多数の新入部員達がレギュラーの座を奪って活躍しています。はっきり言って今までのうちのチームは、守備面ではエース細田君の投球に、攻撃面ではスラッガー角田君のバッティングに頼り切りのチームでしたが、今は違います。冷静に見ても龍谷千葉に見劣りしない、いやそれ以上の戦力を有しています。これから夏が待ち遠しいですね。みなさん、怪我にだけは気を付けて夏の甲子園初出場に向けて頑張っていきましょう!」

「はい!」