安達弾~打率2割の1番バッター~ 第22章 春季大会3回戦 船町北VS千葉修道⑥
走力を生かした機動力野球を目指している船町北高校野球部では、バントなどの小技の練習に力を入れている。しかし、そんなチームの中でもバント練習をしなくていいと鈴井監督から直々に言われている選手が2人だけいる。
1人目は安達。理由は単純に、バントをする必要性がないほどバッティング技術が優れているから。そして安達以外にその特例が認められているもう1人の選手、それが今打席に立っている山田だった。
中原が球を投じた後もバントをする気配がない山田と、要求通りの外角低めにきたキレのいいストレートを見て、小林はホッと胸をなで下ろした。
(このストレートならヒットや犠牲フライも打たれそうにな……)
「カキーン!!!」
(何っ!)
小林の予想に反して、山田は中原のストレートをバットの芯で捉えた。逆方向のレフトへ飛んでいく強い当たり。その打球を定位置よりもやや後ろでキャッチしたレフト石塚の好返球も、安達の走力の前では無意味だった。
「セーフ!」
山田の犠牲フライにより、船町北はさらに追加点を加えた。
「安達ナイスラン! そして山田、ナイス犠牲フライ!」
ベンチに帰ってくる2人を迎える鈴井監督に、山田はやや不満げな表情でこう言い返した。
「できればホームランかヒットで1アウトのまま後ろに繋げたかったんですが……まだまだ自分は力不足ですね」
(あの外角低めのストレートを犠牲フライにできるのは、安達を除けばチームでも山田くらいだ。お前には十分過ぎるくらいのバッティング能力がすでに備わっている。それでもまだまだ自分の能力に満足しないその向上心こそが、お前の1番の才能だ。今はまだ安達の影に隠れがちだが、いつか安達と並び評されるくらいの打者に成長してくれると俺は期待しているぞ)
山田に続く5番バッターの石川は、セーフティーバントを試みるも惜しくもアウトとなり、4回表の船町北の攻撃は終了した。
星と安達が2盗塁ずつ、合計で4回もの盗塁を決め、野口と山田がそれぞれスクイズと犠牲フライできっちりとランナーを返すという、船町北の目指す機動力野球が遺憾なく発揮された攻撃で、この回船町北は千葉修道から2点を先制することに成功した。
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船町北 0002
千葉修道 000
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