安達弾~打率2割の1番バッター~ 第22章 春季大会3回戦 船町北VS千葉修道⑤
4回表。1アウトランナーなし。ここで打席に立つのは3番バッター安達。
(1失点はもうしょうがない。だがここで追加点まで許してしまったら、相手に完全に流れがいってしまう。次のバッターはよりによって安達か。さっきの打席では、完全に打ち取った当たりをセンターの深いところまで運ばれてしまったからな。例えランナーなしの場面でも、安達とまともに勝負してしまえばホームランで追加点を食らう可能性大だ。ここの場面はというか、もう安達の打席は全打席敬遠以外考えられない)
キャッチャー小林が敬遠のサインを出すと、それを見た中原は少し驚きながらも大人しく従った。
(ピッチャーにとって、ランナーなしの場面で敬遠するほど屈辱的なことはない。だが、相手があいつなら話は別だ。1度対戦しただけで理解させられてしまった。あいつがいかにバケモンじみたパワーを持っているのかを。練習試合ならともかく、公式戦であいつとまともに勝負するなんて正気の沙汰じゃない。ここはピッチャーのプライドよりも、チームの勝利を優先させてもらうぜ)
「ボールフォア!」
1アウトランナー1塁。ここで迎えるバッターは4番バッターの山田。
(さっきの打席ではフォークボールにキレイに三振してくれていたな。この打席でも、まずはフォークからいくか)
中原が初球のフォークボールを投げようとした瞬間、ファーストランナーの安達がスタートを切った。
(調子に乗るなよ)
小林は山田が空振りしたフォークボールを捕球してすぐに送球するも、安達は余裕で塁を陥れた。
(クソッ! 空振りしたバットが送球に邪魔だったのと低めのフォークだったことも相まって刺せなかったか。まあいい。バッターに集中だ。次は内角の厳しいコースをストレートで攻めるぞ)
2球目、中原が内角へのストレートを投げた瞬間、セカンドランナーの安達がまたスタートを切る。
(こいつらどんだけ走るんだよ。だが……)
「ボール!」
中原が見逃した内角のボール球を小林が捕球して、すかさずサードへ投げる。
(今回はバッターのスイングの邪魔もないし、球種もストレートだ。捕球から送球の流れも完璧。これで刺せない訳が……)
「セーフ!」
(はっ? これで刺せないって……安達の奴、星並みに速いんじゃないか? ていうかちょっと待てよ。まともに勝負したらホームランの危険が高い。かと言って敬遠したら盗塁で3塁まで走られるって……一体どうすりゃいいんだよ)
1アウトランナー3塁のピンチだということも忘れて、小林は軽いパニックに陥っていた。
「小林先輩!」
サインを中々出さない小林を見かねて、中原がマウンドから声をかける。その声で我に返った小林は、慌てて外角低めストレートのサインを出した。中原が投球動作を始めた頃、小林はあることに気付いた。
(やばっ、まだ1アウトだった。またスクイズくるかもしれない。1回外しておいた方が良かったかも……)
しかし、幸いにも山田にスクイズのサインは出されていなかった。なぜなら、山田はバント練習を普段からほとんど行っていないからだ。
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船町北 0001
千葉修道 000
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