安達弾~打率2割の1番バッター~ 第22章 春季大会3回戦 船町北VS千葉修道⑰

 1対8。7点差という絶望的な点差から劇的な大逆転を果たした千葉修道ナイン達は、まるで優勝を決めたかのような勢いで大喜びしていた。それとは対照的に、がっくりと肩を落として静まり返る船町北ナイン達。重い足取りで帰りのバスに乗り込んでいく選手達の中に、比嘉と鈴井監督の姿はなかった。

「監督、大丈夫ですって」

「ダメだ。もうタクシーも呼んであるからな。早く行くぞ」

 鈴井監督はタクシーに比嘉と乗り込むと、急いで病院へと向かった。

「先生、比嘉は大丈夫なんでしょうか? もしかして、手術が必要だったりしますか?」

 肩を痛めた比嘉本人以上に心配する鈴井監督をなだめるように、先生は話し始めた。

「監督さん落ち着いてください。特に深刻な異常はなかったので、手術は必要ありませんよ」

「良かったー。安心しました」

「だから言ったじゃないっすか。大したことないって」

「ただし、痛みがなくなるまではボールを投げないでください」

「分かりました。絶対に投げさせません!」

 真剣にそう答える鈴井監督と、渋々頷く比嘉。

「そして痛みがなくなったあとも、1日に80球以上の投球はしないでください。もちろん連投なんてもってのほかですよ」

「はぁ? ちょっとふざけんなよ! それっぽっちしか投げらんねえとかありえねえよ」

「まあまあ落ち着け比嘉。でも先生、一体どういうことですか?」

「試合の映像を見させてもらいましたが、まだ成長期で体ができていないのにあんな速い球を投げていたら、そりゃあ肩も痛めますよ。成長期が終わってしっかりとした体の土台ができるまでは、150キロ以上の球、いやできれば140キロ以上の球は投げないでください」

「わざと手加減して投げろってことですか? そんなのあんまりっすよ」

「もしも比嘉がその約束を守らなかったら、どうなるんですか?」

「間違いなく近い内に、手術が必要になるような怪我をするでしょうね」

「そんな……」

「でも安心してください。何も一生制限しろと言っている訳ではありません。比嘉君の成長期が終わって体がある程度でき上がるまでの辛抱です」

「それはいつまでですか?」

「半年後か1年後か、はたまた2年後か。はっきりと断言はできません。一般的には高校生の間くらいには成長期は終わりますが、遅い子だと大学生になっても伸び続ける子はいますからね。とにかくこれからは毎月欠かさず、例え痛みがなくてもここに通ってきてください。その都度様子を見ながら判断していきます」

(つまり最悪、次の夏の大会はもちろん来年の夏の大会でも、こんな制約の中でしか比嘉を使えなくなるということか。何てことだ。今日の試合で改めて、うちが強豪校に勝つためには比嘉に最後まで投げ切って抑えてもらうことが必要だと思い知らされた。それなのに……このままじゃうちのチーム、絶対に甲子園なんて無理じゃね?)