安達弾~打率2割の1番バッター~ 第22章 春季大会3回戦 船町北VS千葉修道⑯
千葉修道との試合を終えて、バスに乗りこむ船町北高校の選手達。席に着くなり溜息をつきながらずーと項垂れている吉田に、チームメイト達は誰も声をかけることができなかった。
(そりゃあ落ち込むよな)
(俺だったらしばらくトラウマになるかも)
(5点差の9回裏1アウトランナーなしのあの場面から登板して)
(まさかまさかのサヨナラ負けなんてやらかしたらさ)
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9回裏2アウト。1番バッターの野宮に満塁ホームランを打たれ同点に追いつかれた吉田の精神状態は、完全に崩壊していた。
(俺のせいで、完全に俺のせいでに勝てた試合を振り出しに戻された。最悪だ。今の俺に、これ以上投げる資格なんてあるのか? 俺がこれ以上投げ続けるくらいなら、川合に交代してもらった方がましじゃないのか?)
吉田はもう交代させてくれと祈るような目でベンチにいる鈴井監督の方を見たが、当の鈴井監督はそれに気づかないほど同点に追いつかれたことに動揺していた。
(俺のせいだ。あの時吉田は完全に準備不足だったのに、俺が吉田にあんなことを言って送り出さなかったら、きっとこんな事態にはならなかったはずだ)
「あとたったの2アウトだ。ちゃちゃっと抑えてくれ」
(俺は完全に油断していた。あの時点ですでに勝ちを確信してしまってた。だから吉田にあんなセリフを吐いてしまった。でも今思い返すと、あれは完全に間違いだった。もしもあの時)
「まだ2アウトも残っている。最後まで油断せずに厳しく攻めていけよ」
(そんな風に言っていたら、結果は変わっていたんじゃないか? あーくそっ、悔やんでも悔やみ切れん)
鈴井監督は両手で頭を抱えながら、吉田がこちらを見ていることにも気付かないまま、ただただ後悔していた。
(吉田先輩落ち着くたい。まだ試合は同点。終わった訳じゃないたい。あとアウト1つ取ったら延長戦たい。それまで何とか投げ切ってくださいたい)
西郷のそんな願いも虚しく、吉田が2番バッターの越智に投げた初球のチェンジアップは、高めに浮いて変化もほとんどない死に球だった。そしてこんな絶好球を、千葉修道の上位打線でレギュラーを張る越智が見逃すはずもなく……。
「カキーン!!!!」
123456789 計
船町北 000211121 8
千葉修道 000001008 9
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