安達弾~打率2割の1番バッター~ 第22章 春季大会3回戦 船町北VS千葉修道⑮
(まあ普通この場面なら、代打出すよな。でも落ち着け。所詮代打で出てくるような選手は、スタメン落ちした格下の選手だ。丁寧に投げていけば、きっと抑えられるはずだ)
そう自分に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせる吉田。千葉修道がここで代打に出したのは3年の四宮という選手で、公式戦で試合に出るのは初めてだった。
(この選手、データがないたい。ばってん、どう攻めていこうたいか?)
四宮は打席に立つと、かなりベース寄りの位置に立って構えた。
(そんな位置に立たれたら、外角には投げづらいたい。まずは内角から攻めていくたい)
内角にミットを構える西郷。サインはストレート。バッターがベース寄りに立っているため、少しでもコントロールが内角にズレればデッドボールになる。
(だからと言って、中途半端にいけば打たれる。ここは厳しく攻めてくぜ)
吉田はそう開き直って腕を振る。放たれた球は、ボール1個分だけ内角寄りに外れた。普通ならこれで1ボールとなるところだが、今回は違った。何とバッターの四宮が、のけぞるどころか肘を前に出してそのボールに当たりにいったのだ。
「ボン!」
鈍い音が鳴り響く。
「デッドボール!」
バッターは肘を抑えて痛がりながらもすぐに1塁へと走り出すと、ベンチに向かってガッツポーツを見せた。千葉修道は押し出しで1点を追加。スコアは8対4と4点差にまで縮まり尚も満塁のピンチが続いていた。
(あのバッター、あの様子じゃ最初からデッドボール上等で打席に立っていたばい。くそっ、おいどんがバッターの狙いに気付いていたら防げた失点たい)
(やばい、これで4点差。ホームランでも打たれたら、あっという間に同点に追いつかれてしまう)
ここで迎えるバッターは、1番の野宮。その野宮も、さっきの四宮と同じようにベース寄りの位置に立って構えた。
(嫌なバッターたい。あんな位置に立たれたら、嫌でもさっきのデッドボールを思い出してしまうたい)
西郷吉田バッテリーは、もうデッドボールの押し出しは勘弁と徹底して外角のコースを攻めた。しかし野宮も冷静にカットで粘り続け、カウントは2ストライク3ボールとフルカウントになった。
(カーブにスライダー、そして1番自信のあるチェンジアップもカットされたばい。もう投げる球がないたい。こうなったらもう、ビシっと内角を攻め切るしかないたい。吉田先輩、頼みますたい!)
西郷は祈るような気持ちで内角に構えると、吉田は覚悟を決めて首を縦に振った。
(今度こそキッチリ決めてやる。これでゲームセットだ!)
大きく振りかぶって、吉田が球を投じるその瞬間、吉田の頭の片隅にさっきのデッドボールのシーンがほんの一瞬だけ浮かんだ。そのせいか、吉田が投げた球はほんの少しだけ真ん中よりの甘いコースへと向かってしまった。
「カキーン!!!」
野宮の打球は、懸命に追いかけるライト山田の頭を超えていき、さらにはライトフェンスの上までも超えていった。記録は満塁ホームラン。何とここにきて千葉修道打線は、7点差もあったスコアを振り出しに戻すことに成功した。
123456789
船町北 000211121
千葉修道 000001007
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません