安達弾~打率2割の1番バッター~ 第22章 春季大会3回戦 船町北VS千葉修道⑬

(……よし、決めた)

「吉田、いきなりで悪いが投げてくれ」

「えっ? 今日は投げないはずじゃ」

「緊急事態だ! この大事な場面を川合には任せられない」

「ちょっと監督、何すかそれ。俺は秘密兵器ですよ。緊急事態なら秘密兵器の出番じゃないっすか」

「秘密兵器をここで出してしまったら、秘密じゃなくなってしまうだろうが」

「秘密じゃなくなる……確かに」

「とにかく吉田、あとたったの2アウトだ。ちゃちゃっと抑えてくれ」

「わかりました」

 こうして緊急登板することになった吉田だが、吉田の頭の中はすでに明日の龍谷千葉戦のことでいっぱいだった。

(明日の登板に影響しないようにしないとな。幸い点差は5点もある。フォアボールで塁を溜めてしまうのだけは避けたい。無駄球は使わずに、ストライクゾーンで勝負だ)

「吉田先輩、まだ5点差もありますばってん、無駄球は使わずにストライクゾーンでガンガン勝負していきましょうたい」

「西郷気が合うな。俺も丁度同じこと考えていたぞ。じゃあしっかりリード頼むぞ」

 ストレート、スライダー、カーブ、チェンジアップと吉田の持ち球全てを、それぞれ2球ずつ投球練習した後、5番バッターの石塚が打席に入ってくる。

(うーん今日はコントロールが今一つだな。まあいいか。どうせストライクゾーンで勝負するんだし、細かいコントロールは投げながら調整していこう)

 そんな吉田の初球は内角へのスライダーだったが、真ん中よりの高めに浮いてしまう。その甘い球を、石塚はコンパクトなスイングで捉えにいった。

「カキーン!!」

 打球はショートとサードの間を抜けるレフト前ヒット。

(いきなり初球を打ってきたか。だがまだ慌てることはない。例えホームランを打たれたとしても、まだ3点差もあるんだ。怖がらずにストライクゾーンで勝負だ)

 6番バッター滝村に対する初球、吉田は外角低めにカーブを投げようとするも、これも高めに浮いてしまう。その甘い球を、滝村は見逃さない。

「カキーン!!」

 打球はセカンドとファーストの間を抜けるライト前ヒット。2打席連続の初球打ちヒットを許した吉田は、流石に少しだけ焦り始めた。

(点差にあぐらをかいて、あまりにも雑に投げ過ぎたかもな。比嘉の奴があまりにも簡単に抑えるもんだから忘れかけていたが、相手はあの強力打線の千葉修道だ。俺は比嘉のようにすごいストレートも投げられないし、かと言ってキレッキレの変化球がある訳でもない。ストライクゾーンで勝負だ? お前は何を考えていたんだ。もっと身の程をわきまえろ。ストレートも変化球も大したことないなら、もっとギリギリのコースを責めていくしかないだろうが!)

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 船町北  000211121
 千葉修道 000001002