安達弾~打率2割の1番バッター~ 第22章 春季大会3回戦 船町北VS千葉修道⑪

9回裏。千葉修道最後の攻撃。

「カキーン!!!」

「パシ!」

 この回の先頭打者越智が初球から積極的に打ちにいった打球は、強い当たりだったもののファーストを守る安達の正面に飛び1アウトとなった。

(くそっ、またこの展開だ。どうしていつもいつも俺達の前に立ちふさがるんだ……船町北め!)

 千葉修道の伊藤監督は、あと2アウトで7点差という絶望的な展開にもはや諦めかけていた。

(比嘉の奴……俺の想像を遥かに超える完璧な投球だ。これならきっと、龍谷打線相手にだって十分通じるはずだ!)

 船町北の鈴井監督は、今日の比嘉の投球内容に大満足していた。

 そんな中、キャッチャーの西郷だけがこの回の比嘉の違和感に気付いていた。

(136キロか。球速が若干落ちているばってん、問題はそこじゃない。スピード以上に、ストレートのキレがなくなっているように見えたばい。比嘉の奴、大丈夫たいか?)

 西郷がそんな一抹の不安を抱える中、3番バッター立花が打席に立った。

(打撃が自慢のうちの打線が、僅か1点のみで終わるなんてあってたまるか。意地でも打ってやる)

 そんな立花に投げられた比嘉の初球は、外角への普通のストレートだった。

「ストライク!」

(あれっ?)

 立花が電光掲示板の球速を確認した。

(これで136キロ? もっと遅く感じたが……)

 2球目、西郷は内角低めへ浮き上がるストレートのサインを出したが、ストレートは全然浮き上がらないまま地面スレスレを通過していった。

「ボール!」

(今の球に至っては、ただの低めに外れたスローボールだ。どうやら、大分疲れてきたようだな。今までの球のキレがまるでない。これなら……)

 3球目、比嘉が投げたのは内角高めへの落ちるストレートだったが、初球と2球目のストレートがまるでキレのない球だったこともあり、立花の目にはもはや普通のストレートにしか見えなかった。

「カキーン!!!」

 高く上がった打球は、そのまま綺麗な放物線を描いてライトスタンドまで飛んでいった。

「ナイスバッティング!」

 ネクストバッターの真山がそう言って立花にハイタッチしようとすると、立花は真山にこっそりと耳打ちした。

「ストレートのキレがなくなっている。あのピッチャー……大分疲れてるぞ」

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 船町北  000211121
 千葉修道 000001001