安達弾~打率2割の1番バッター~ 第21章 春季大会開幕⑤

 船町北高校野球部が春季大会の本戦への出場を決めた3日後の17日。この日は船町北高校の部活動仮入部期間が終わる日でもあったが、結局船町北高校に入部する新入部員は特待生の比嘉のみとなってしまった。

(覚悟はしていたが……仕方がない。今年は量より質だ。比嘉のような逸材を1人獲得できただけでもよしとしよう。ただし、来年もこうだとさすがに部の存続すら危ぶまれてしまうからな。理事長との約束では、来年までに甲子園に出場できなれば俺が首になってしまうという話だったが、できれば今年中にでも出場を決めてしまいたい。そうすれば、千葉だけじゃなく全国各地からうちへの入部希望者が殺到してくるはずだからな)

 鈴井監督はそう気持ちを切り替えて、野球の指導により一層力を入れた。

「よし、30球中13個もストライクを取れたぞ! これで課題だったコントロールもバッチリだ」

 ブルペンでそう喜ぶ川合に、キャッチャーの西郷がツッコミを入れる。

「最後の球はギリギリボールたい!」

「いやいやギリギリストライクだろ!」

「まあどっちにしろ、ストライク率が半分もいってないばってん、満足するのはまだまだ早いたい」

「ちぇ、つまんねーの」

(とは言え、今まで3球に1回が良い所だった川合のストライク率が、実戦の登板を2試合経験して以降は5球に2回くらいに微妙に向上しているのは確かたい。この調子で成長していけば、春季大会の本戦までには無理にしても、夏までにはストライク率50%を何とか超えられそうたい)

「西郷どん、次は俺の球受けてくれー」

「吉田先輩、わかりました」

「おい西郷、まだ投げたんねえよ。もっと受けてくれ」

「なら川合、俺が受けてやるよ」

「山田先輩、あざーす」

(今ではすっかり西郷に正捕手の座を奪われてしまったが、まだまだ諦めた訳ではない。いつでもマスクを被れるように、川合の暴れ球を完璧に捕れるように練習しておかないとな。そしてもちろん、比嘉のストレートも)

「比嘉、川合が終わったらいつでも受けてやるぞ」

「ありがとうございます。でも山田先輩、大丈夫っすか? 前に受けてもらった時、全然捕れてませんでしたけど」

「うるせえな。だから練習するんだろ。いつかそんな減らず口を叩けないよう完璧に捕れるようになってやるからな。覚悟しておけよ」

 その時比嘉は、中学時代のことを思い出していた。