安達弾~打率2割の1番バッター~ 第21章 春季大会開幕④

 4回を投げ終えた時点で、川合は10奪三振の無失点という投球をしていた。

     123456789   
 船町北 10211      
 西森  0000      

(ようし、次の回も抑えれば勝ち投手の権利がもらえるぞ)

 川合が投球練習をしに行こうとすると、それを鈴井監督が止めた。

「川合、今日はここまでだ。比嘉、次の回から行くぞ」

「はい!」

「ちょっと待ってくださいよ! あと1回で勝ち投手ってとこなのにそりゃないっしょ。二桁奪三振に無失点の投手を降板させるなんて、監督としての資質を疑われますよ」

「あのな川合、二桁奪三振に無失点なんて言い方をしたら如何にもお前が好投しているように聞こえるが、二桁四死球を付け忘れてるぞ」

「それはまあいいじゃないっすか」

「よくない! 1つや2つならともかく、4回でフォアボール10、デッドボールが2ってここまで無失点なのが不思議なくらいの記録だぞ」

「どうでもいいじゃないっすかそんなの。結果的に抑えてるんだし」

「お前、今自分が何球投げているかわかるか?」

「えーと……80球くらい?」

「120球だ! たったの4回だけでどんだけ球数投げてんだ。勝ち投手の権利がどうとか関係なく、交代させるべきだろ。何か文句あるか!」

「……いいえ」

(とは言え、初回から毎回満塁のピンチを作りながらも無失点で切り抜けた勝負強さは評価せんといかんな。ただし、春季大会の本戦ではシード権が掛かっている2回戦を終えるまでは絶対に登板させんぞ。川合の投球はあまりにも不安定過ぎるからな)

 5回から投手が交代したのを見て、相手校のネクストバッターは内心ホッとしていた。

(良かったー交代してくれて。さっきまでの奴は球は速いわコントロールは滅茶苦茶だわで、打席に立ってるだけでも当てられそうで怖くて怖くて仕方なかったからな。さて、2番手投手なら俺達にだって打てる可能性があるはず……)

「パン!!」

 比嘉の投球練習を見たそのバッターは、驚きを隠せなかった。

(こいつの球……さっきの奴より速くね?)

 実際は比嘉の方が川合に比べて10キロ以上も遅い球を投げていたのだが、驚異的なキレの良さを誇る比嘉のストレートはそう錯覚させるだけの力があった。

     123456789 計  
 船町北 1021104   10   
 西森  0000000   0
 
 比嘉は3回を投げて、四球を1つ挟んだ9者連続奪三振というほぼ完璧な内容で試合を締めくくった。

(一昨日の吉田の投球も悪くなかったが、やはり比嘉の投球は頭1つ抜けているな。この比嘉のピッチングが龍谷みたいな超強力打線相手に果たしてどこまで通用するのか、今から楽しみだ。そして打線の方も、ようやく機能するようになってきたな。新チームになってから半年以上も地道に走塁練習や足を生かしたバッティングを練習させてきた成果が、ようやく実を結びつつある。この打線が三街道の細田や龍谷の村沢みたいな好投手相手に果たしてどれだけ通用するのか、楽しみが尽きないな)