安達弾~打率2割の1番バッター~ 第21章 春季大会開幕③
初戦の快勝からの2日後、4月14日。船町北高校の春季大会地区予選代表決定戦が行われようとしていた。
船町北高校スターティングメンバー
1 星(中)
2 野口(二)
3 安達(一)
4 山田(右)
5 石川(三)
6 滝沢(左)
7 佐々木(遊)
8 西郷(捕)
9 川合(投)
一昨日のデビュー戦では初回に4連続四球を出して降板させられた川合だったが、今日の試合でもスターティングメンバーに入っていた。
(一昨日はまだ1回だってのに降ろされてムカついたけど、何だかんだ言って監督は俺を1番信頼してるってことだな。ようし、今度こそやってやるぞ)
しかし残念ながら、鈴井監督は川合を信頼して先発させた訳ではなかった。全体のミーティングが終わった後、鈴井監督は比嘉を呼び止めてこっそりと耳打ちした。
「一昨日の試合みたいにまた、川合は四球を連発して自滅する可能性が高い。だから初回からでも行ける準備をしておいてくれ」
「はい!」
(川合にとって一昨日の試合は、練習試合すら出場経験のない初心者をいきなり公式戦に出場させるという荒療治だった。普通なら委縮して思い通りに投げられなくなるところだが、川合の場合はコントロールはともかく、腕はしっかりと触れていた。事実、スピードも150以上出ていたし地区予選レベルのバッターでは打てる気配すらなかった。そしてフォアボールをあれだけ出していてもなお、1度も置きに行くようなピッチングをしなかった。ある意味凄い度胸だ。経験さえ積めば強力な戦力になる片鱗を、ほんの少しだけだが垣間見た気がした。しかし、現地点ではまだまだ不安要素が多過ぎる。今はまだ地区予選だから、多少失点されたところで簡単に逆転できるという余裕があるから出してやれるが、本戦に進んだ後もお前を出してやれるかどうかは、今日の結果次第だぞ)
一方その頃、相手校の監督は選手達にこんな指示を出していた。
「今日の先発の川合って投手は、一昨日の試合で150を超える球を連発していた」
「150だって!」
「俺達のレベルじゃ」
「打てる訳ないな」
「それは監督の俺が1番理解している。だが安心しろ。その投手は初回にフォアボールを4つも出して降板している。つまり、1度もスイングせずにただ立っていれば簡単に攻略できる」
「おお!」
「だから間違っても、ヒットを打ってやろうなんていう色気は出すなよ」
「はい!」
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