安達弾~打率2割の1番バッター~ 第21章 春季大会開幕①

 2017年。4月11日。春季大会地区予選初戦の前日。鈴井監督からベンチ入りメンバーの発表が行われ、その中には吉田、川合、比嘉の投手陣3人も選ばれていた。実はこの3人、1年生の比嘉はもちろんのこと、怪我で秋季大会に出られなかった吉田、制球に難がある川合と3人全員が高校の公式戦出場経験がなかった。

「投手のエースナンバー1は、練習試合などの実績を考慮して吉田にしてあるが、あくまでこれは暫定的なものだ。この春季大会の結果次第では、比嘉がエースになる可能性も大いにあるぞ」

「監督、俺を忘れますよ」

「ああすまん。川合にも、エースになれる可能性はほんのちょっとだけあるな」

「ほんのちょっとって何すか。大本命っしょ」

「まあとにかく、3人とも頑張ってくれ」

「はい!」

 そして4月12日。船町北高校野球部の春季大会地区予選初戦が始まろうとしていた。

 船町北高校スターティングメンバー

 1 星(中)
 2 野口(二)
 3 安達(一)
 4 山田(右)
 5 石川(三)
 6 滝沢(左)
 7 佐々木(遊)
 8 西郷(捕)
 9 川合(投)

「今まで3番山田4番安達という打順が多かったが、せっかく山田がヒットで塁に出ても、次の安達が敬遠されてしまうことが多かった。そこで、今日は実験的に打順を入れ替えてみた。チームで安達の次にバッティングがいい山田を安達の後ろに置くことで、少しでも安達が敬遠されるのを防ぐ目的だ。山田、この打線が機能するかはお前のバッティングにかかっているぞ」

「はい! 任せてください」

 そんな鈴井監督の話を聞き流しながら、川合は初戦の先発に選ばれたことを心の中で大喜びしていた。

(大事な初戦の先発を俺に任せてくれるなんて……監督、何だかんだ言って1番俺に期待してるじゃないっすか。ようし、やってやるぞ)

 しかし、鈴井監督の思惑は違った。全体のミーティングが終わった後、鈴井監督は吉田を呼び止めてこっそりと耳打ちした。

「俺の見立てでは、川合は四球を連発してすぐにピンチを作るだろう。そこで1点でも失点を許したら、初回からでもすぐにお前にスイッチする予定だ。だからいつでもいけるよう準備しておいてくれ」

「はい、わかりました」