安達弾~打率2割の1番バッター~ 第20章 特待生 比嘉流星の入部⑤

「カキーン!!!!」

 外角の真ん中にきた比嘉のストレートを、安達は思いっきり引っ張った。猛烈な打球音が鳴り響き、凄まじい速度で打球が飛んでいくも、角度がつかずライト前当たりで地面につくとそのまま外野フェンスまで転がっていった。

「くそーホームランにはできなかったか」

 悔しがる安達。

「安達先輩、流石っすね」

 打たれたにも関わらず、どこか嬉しそうな比嘉。

「どうだ、参ったかたい! だから言ったばい。高校野球はストレート1本で通じるほど甘くないたいってな。次はいよいよ3打席勝負の最後の打席たい。比嘉、負けるのが怖いからって逃げるんじゃねえたいぞ」

 自分が打った訳でもないのに、偉そうに説教を垂れる西郷。

「逃げませんよ。最後の勝負、絶対に俺が勝ちます!」

(とは言ったものの、このままじゃ負けるな。できることなら最後まで真っ向勝負でいきたかったけど、この勝負に負けたら投げたくもない変化球の練習をさせられてしまう。しょうがない。あの作戦でいくか)

 安達弾VS比嘉流星。3打席目の最後の勝負が始まった。

(比嘉、お前の球はもう見切った。最後はホームランでも打って、気持ち良く快勝してやるぜ)

 自信満々で打席に立つ安達。

(最初はどうなることかと思ったばってん、この調子なら安達が勝ってくれそうたい)

 安達が勝つことを信じて疑わない西郷。

(今一つ気が乗らないけど、これも勝負に勝つためだ)

 こんな調子で投げられた比嘉の1球目は、ベースのはるか手前でバウンドしそうな斜め下の角度に向かっていた。

(おいおい、いきなり暴投たいか)

 バウンドする球を止めようと、西郷は素早く両ひざを下ろし、グローブを地面につけて、体をくの字に曲げた。体をくの字に曲げることで、もしもワンバンした球をキャッチできず体に当たった場合でも球が下に落ちやすくなるため、球が他所へ飛んでいきその間にランナーに走られしまうのを防ぐ効果がある。
 
 しかし、今は実際の試合ではないため別にブロッキングをしてまでワンバンの球を止めにいく必要はないのだが、西郷は練習でも常に実戦を意識しながら練習に取り組んでいるため、自然とブロッキングの態勢を取っていた。

(あれ、球が落ちてこない)

 ワンバンすると瞬時に判断してブロッキングの態勢を取った西郷だったが、比嘉の投げた球は地面に当たりそうな角度から急激な上昇を見せ、そのまま地を這うようにして低めいっぱいの高さを保ったままベース上を通過した。

「ボン!」
 
 比嘉のストレートをキャッチできず、体で前に落とした西郷。

「ストライク!」