安達弾~打率2割の1番バッター~ 第20章 特待生 比嘉流星の入部③

(今のストレート、速すぎて手が出せなかった。ついこの前まで中学生だった奴が、まさかここまでの球を投げるとは)

 安達はバットを握り直すと、3回程素振りをしてからピッチャーの比嘉を睨んだ。

(安達先輩の目の色が変わった。ここからが本気の勝負って訳か。そうこなくっちゃ)

 2球目。真ん中の高めに向かう比嘉のストレートを、安達はフルスイングする。

「ストライク!」

 安達のスイングは、球にかすりすらしなかった。

(まだバットの上をいくか。どんだけ伸びてくるんだよ)

 そして3球目。比嘉が投げたストレートは、ど真ん中へ向かっていた。
 
 ストレートしか投げてこないとわかっている投手が、ど真ん中へ投げてくる。普通なら簡単に打てる。ましてや、バッターはあの安達だ。普通に考えたら打てないはずがない。しかし、普通では考えられない事態が、今まさにこの瞬間起きてしまった。

「ストライク! バッターアウト!」

 安達は比嘉との1打席の勝負で、とうとう1度もバットを球に当てることすらできないまま、空振り三振を喫してしまった。

(今まで色んなピッチャーを見てきて、1番ストレートが凄かったのは黒山先輩か大阪西蔭の千石さんだ。でも、こいつのストレートはその2人をも凌駕している。そんなことが、本当にありえるのか?)

(キャッチャーのおいどんが捕るだけで精一杯なストレート……安達が打てんのも無理ないたい)

 あの安達が球に当てることすらできないままあっさりと比嘉に三球三振で抑えられた様を見ていた他の部員達は、驚きのあまり言葉を失っていた。

「先輩、1打席目は俺の勝ちっすね。じゃあ早速、2回戦といきましょうか」

「おっ、おうたい……」

(やばいたい。このままじゃ勝負に負けてしまうたい)

 西郷は小声で、バッターボックスにいる安達に呟いた。

「安達、打てそうたいか?」

 安達も小声で西郷に言い返す。

「無理かも」

 安達と比嘉が勝負をしている間、鈴井監督はバッターボックスの後ろからスピードガンで球速を測りながらその様子を見守っていた。しかし、鈴井監督はその勝負の行方よりも、スピードガンに表示されている球速の方が気になっていた。

(沖縄で初めてあいつの球を見た時、150くらいは出ているように感じた。そして今日久しぶりに見たあいつのストレートは、その時以上に進化しているように見えた。それなのに一体なぜ……このスピードガンには球速が140キロと表示されているんだ?)