安達弾~打率2割の1番バッター~ 第20章 特待生 比嘉流星の入部㉔

 これは比嘉が入部した初日の、練習が終わったあとの夕食での出来事だった。

「いいか比嘉、食べることも練習だからな。体を大きくするためにも、残さず食べるんだぞ」

 そう鈴井監督に言われている比嘉を見て、先輩の部員達は同情していた。

(俺も最初の頃はきつかったなー)

(ある意味、練習以上に食べる方が嫌だったかも)

(まあ比嘉、これも高校野球の洗礼だ。頑張って乗り切るんだぞ)

 しかし、比嘉は丼ぶり山盛りのご飯とおかずを難なく食べ終えると、鈴井監督に質問した。

「あのーすみまえん、お替りとかってできたりしますか?」

(あいつ、最初のここでの食事で完食どころかお替りって)

(前代未聞だぞ。いや待てよ、1人だけいたな)

(そうそう、安達以来だ)

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「いいか安達君、食べることも練習だからな。体を大きくするためにも、残さず食べるんだぞ」

 そう言われた安達は、山盛りに盛られた丼ぶり飯もおかずもあっという間に平らげると、何とお替りまでしてしまった。

「おい安達、よくそんなに食えるな」

「どんだけ大食いなんだよ」

「実は僕、昔から貧乏で。それで小学校に入学した時、親父からこう言われたんです。平日は朝食も夕食も用意しない。だからその分、昼の給食で食い溜めしてこいと。それから僕は、毎日生きるために必死に給食を食べました。残った給食のお替りはもちろん、クラスメート全員分の好き嫌いを全て把握して、嫌いなおかずは片っ端からもらいに行ってました。そのおかげもあって、毎日給食では3~5人前くらいの量は当たり前に食べていたんで、多分それで大食いになったんだと思います」

「安達……色々苦労してたんだな」

「ここでは毎日好きなだけ飯が食えるからな」

「遠慮しないでガッツリ食えよ」
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「お前スゲー食いっぷりだな。まあまあ食べる方の俺でも、最初はお替りなんてできなかったぞ」

 比嘉にそう話しかけたのは、身長190センチ越えのチーム1の大男、川合だった。

「うちの母親が居酒屋やってるんですけど、余った食材が勿体ないからって、めちゃくちゃ大量に料理作るんですよ。それを毎日のように無理やり食わされてたんで、自然と大食いになりました」

「へー母ちゃん居酒屋やってるのか。てことは、料理上手なんだろうな。うちの母ちゃんは料理下手だから羨ましいぜ」

「もしも沖縄に来る機会があったら、ぜひうちの店にきてください。ご馳走しますよ」

「わかった。絶対行くよ」

 そう言いながら、自分の丼ぶり飯の上にマヨネーズをドバドバとぶっかける川合。

「あのー先輩、もしかしてマヨラーですか」

「ああ。母ちゃんの飯が不味いもんだから、マヨネーズで味を誤魔化してる内に自然とな」

(やっぱりこの先輩、うちの店に呼びたいくないな)