安達弾~打率2割の1番バッター~ 第20章 特待生 比嘉流星の入部⑲

「なるほど。そういうことだったんですか。比嘉、お前もしかしてそこまで計算して投げていたのか?」

「いや、回転数がどうとか今初めて知りましたよ」

「でも不思議だな。何で速いストレートだけ、ここまでキレのない棒球になるんですかね?」

「恐らくじゃが、スピードを出そうとして意識的に腕を強く振る時に回転軸がズレてしまうのじゃろう。そして回転数じゃが、比嘉君、早いストレートを投げる時、人差し指と中指の間隔をいつもより広げて投げとらんか?」

「はい。普段のストレートでは人差し指と中指をそろえて投げてますけど、速い球を投げようとするとどうしてもコントロールがうまくいかなくて。それで試しに少し間隔を開けて投げてみたら、コントロールが良くなったんです」

「やはりな。一般的に指をそろえて投げると、力が一点に集中してより回転数のある球が投げられると言われておるんじゃ。逆に、間隔を開けて投げるとコントロールが安定する分、回転数は落ちる。これで、棒球の理由はわかったの。さて、比嘉君の現時点での評価だが、Aくらいかのう」

「くそっ! Sじゃないのか」

「何を言っておる。ストレートだけしか投げられん投手でA以上の評価をしたのは比嘉君が初めてじゃぞ。これに加えて変化球の1つでも覚えた日には、すぐにでもSを超えられる可能性を秘めておる。じゃが、下手に変化球を覚えようとすると、フォームが崩れて今投げられている奇跡的なキレのあるストレートを投げられなくなってしまう恐れがある。比嘉君、この1年で身長は何センチ伸びたんじゃ?」

「中3の時は確か175くらいで、今は180ちょっとです」

「絶賛成長期中じゃな。とりあえず、体の成長が止まってフォームもしかっり固まるまでは変化球の練習はやめておいた方が賢明じゃの」

「言われなくても、変化球を覚える気はないっすよ。ストレート1本で相手をねじ伏せる。これが俺の目指す理想のピッチャーですから」

(そんなの無理に決まっておるじゃろと、普通は言いたくなるところじゃが、比嘉君なら本当に目指せるかもしれん。そう思わせてくれるほどの才能を、比嘉君は秘めておる)

 6人分の投球データ分析が終わり、帰ろうとする選手一同。その帰り際、戸楽博士は鈴井監督にこっそりと耳打ちした。

「比嘉君が故障しないよう、しっかり注意して見守るんじゃぞ。あの子は将来必ず、日本球界を背負って立つ投手になるじゃろうからな」