安達弾~打率2割の1番バッター~ 第20章 特待生 比嘉流星の入部⑰
「わしはここにきたピッチャーを、S・A・B・C・D・Eの6段階で評価しておるんじゃ。Eは初心者レベル。Ⅾは高校の弱小校レベル。Cは弱小~中堅校レベル。Bは中堅~強豪校レベル。Aは強豪~ドラフト候補に入れるレベル。そしてSは、プロの即戦力レベルと言ったところかのう」
「ということは、AよりのBの俺は……」
「強豪校相手にぎりぎり通用するかしないかってところじゃの」
「なるほど。悪くはないけど、本気で甲子園出場を目指すならA以上を目指したいところだな」
「ちなみに、新入部員の3人はCよりのDくらいかの」
「先輩の投球を見た時から」
「うすうす感じていたけど」
「俺達、まだまだだな」
「さて、次は川合君のストレートについてじゃが」
「おっ、やっと俺の番がきたか」
「平均球速が151キロ、最高で154キロも出ておったわい。球速だけなら、すでにプロレベルじゃの」
「マジっすか。聞きました監督! ほら、やっぱり俺をエースにして試合に出すべきですよ」
「じゃが、回転数はひどいの。1分当たりの平均回転数が1800。SPVに換算すると12。SPVの平均値を大きく下回る。そして、平均回転軸も35度と平均以下。つまり、川合君のストレートは完全な棒球じゃ」
「棒球? ああなるほど。まるで大きな丸太の棒を投げられたと錯覚するほど威力があるストレートということだな」
棒球の意味を完全に勘違いしている川合に、鈴井監督がツッコミを入れる。
「馬鹿野郎! 逆だよ逆。球速ほど威力がないしょぼい球って意味だ」
「という訳で川合君の総合評価だが、うーん……A~Ⅾくらいじゃの」
「ちょっと何すかその評価は! 幅が広過ぎでしょ」
「正直、君のようなタイプは未知数じゃ。いくら棒球とは言っても、150を超える速球なら高校生相手ならほぼ通用するじゃろうし、もしかしたら全国レベルの強豪相手でも通用する可能性すらある」
「戸楽博士、いくら何でもそれは過大評価し過ぎでは」
「いや、これはあくまでも可能性の話じゃ。川合君、君は恐らくまだ野球を始めてから日が浅いじゃろ?」
「はい。高校に入ってからなんで」
「やはりそうか。海外と比べて日本の野球少年は、子供の頃から綺麗なバックスピンがかかったストレートを投げるように大人から指導されるもんじゃ。だが、川合君のストレートはそれとは真逆の見事なまでの棒球じゃ。中途半端な棒球なら、いくら速くても強豪校のバッター相手なら通用せん。じゃが、ここまで平均値から逸脱した棒球なら、綺麗なバックスピンのストレートを子供の頃から見慣れている相手にとっては逆に打ちづらいかもしれん。これはあくまでも、可能性の話じゃがな」
「なるほど」
「じゃがもちろん、普通に打たれる可能性もあるし、そもそもあのコントロールの悪さじゃ。打たれる打たれない関係なく、フォアボールを連発して自滅する可能性も多いにある。例え相手が、弱小校じゃろうがな」
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