安達弾~打率2割の1番バッター~ 第20章 特待生 比嘉流星の入部⑯
(今まで数千人のデータを見てきたが、こんな奴は初めてじゃ)
「結果を話す前に、まずは良いストレートの条件について説明しておくかの。君達、良いストレートに必要な条件とは何か分かるかね?」
「スピード」
真っ先にそう答えたのは川合だった。
「確かにそれもあるが、もう1つ重要な条件があるんじゃ」
「キレですか?」
続いて答えたのは吉田だった。
「正解じゃ。そして、そのキレを生むために必要な要素が2つあるんじゃが、それが回転数と回転軸じゃ。まず最初に吉田君のストレートじゃが、平均球速が135キロ、1分間当たりの回転数が平均で2000程度。平均回転軸は25度くらいじゃった」
「あのーそれって良いんですか? 悪いんですか?」
「回転数を球速で割ったSPVという指標があるんじゃが、この指標は高いほど良いとされておる。吉田君の場合は15くらい。これはだいたい高校生の平均くらいじゃの。そして回転軸じゃが、0に近ければ近いほど良いとされおり、平均値は20~30度くらい。吉田君の場合は25度じゃから、これも普通じゃの」
「うーん、微妙だな」
「その通り。君のストレートは微妙じゃ」
「そんなにハッキリ言わなくても」
「ちなみに、最初に測定した新入部員は3人揃って、平均速度が120キロ台、SPVが13~14、回転軸は30度前後という結果じゃった」
「吉田先輩が微妙なら」
「俺達は微妙どころか」
「ダメダメじゃねえか」
「じゃが、そう悲観するでない。吉田君は直球で押すタイプのピッチャーではないじゃろ」
「そうですね。俺には変化球がありますから」
「じゃが残念ながら、スライダー、カーブ共に平凡な数値じゃったわい。とは言っても、新入部員の3人が投げていたそれと比べたら、いくらかマシじゃったがの」
「ガーン。俺には何も取柄がないのか」
「じゃが唯一、チェンジアップは中々じゃったぞい」
「本当ですか!」
「チェンジアップは主に2種類あっての。しっかりと落ちる変化をするものと、タイミングを外す目的で投げられるただの遅い球。そして一般的には、後者の方が多く投げられておる。本人的には落ちるチェンジアップを投げているつもりでも、実際にはただの遅い球じゃったなんてこともよくある話なのじゃが、吉田君の場合はしっかりと落ちる変化をする球を投げられておったぞい。それも、平均値よりも5センチくらい大きな変化で落ちておるから、空振りを狙うにはもってこいの優秀な変化球と言えるじゃろ」
「良かったー」
「それと、さっきは平凡と言ってしまった他の球も、あれだけ安定してコントロールできていれば十分武器になるじゃろ。トータルで評価すると、AよりのBと言ったところじゃの」
「AよりのB?」
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