安達弾~打率2割の1番バッター~ 第20章 特待生 比嘉流星の入部⑮

「比嘉、準備はできたか?」

「はい、バッチリっす」

「じゃああの3種類のストレートを、それぞれ交互に10球ずつ投げてくれ」

 6人の中で最後にマウンドに上がった比嘉が、投球を始めた。最初に投げたのは、140キロ前後のストレートだった。比嘉にとっては、1番投げる割合の多い普通のストレート。しかし、これを初めてみる新入部員の3人にとっては、とても普通とは呼べない代物だった。

(球がほとんど落ちないまま一直線に進んでいる)

(キレのある直球っていうのは、まさにこのことを言うんだろうな)

(しかも、普通に球速も速い)

 続けて2球目に投げたのは、120キロ前後の遅いストレート。元々は対安達用に練習していた低めへの制球に特化した球で、実戦では安達以外に投げるつもりのなかった代物だ。

(えっ?)

(この球の軌道……ありえなくね?)

(もはや浮き上がってると錯覚してしまいそうなレベルのストレート。こんな球、見たことがない)

 そして3球目に投げたのが、比嘉がここぞという時に投げる最速150キロを超えるストレート。

(速っ!)

(でも、今までのストレートに比べてキレはない)

(所謂、お辞儀ストレートって奴か。でも、あれだけキレのいいストレートの後にこの球がきたら、逆に打ちづらいかも)

 その後も投球する比嘉の様子を呆然と見つめる新入部員3人に対して、鈴井監督が話しかける。

「どうだお前ら。先輩達の投球を見た感想は? エースにはなれそうか?」

「正直、無理そうっす」

「だけど、先輩達が引退した後なら」

「俺達にだって十分チャンスがあるはずです」

「ちなみにだが、今投げている比嘉はお前らと同じ1年生だぞ」

「えっ?」

「マジっすか?」

「体もでかいし、てっきり先輩かと」

「まっ、あいつは俺が直々に沖縄まで行ってスカウトしてきた特待生だからな」

「なるほど」

「確かに、大物感があるな」

「道理で凄い訳だ」

「おっ、比嘉が30球投げ終わったみたいだな。戸楽博士、解析をお願いします」

「今やっとるよ。ちょっと待っとれ」

 目にもとまらぬ速さでキーボードを打ち込みながら、吉田、川合、比嘉の3人分のデータをまとめる戸楽博士。

「んっ? これは、計算ミスかのう」

 もう1度キーボードを打ち直す戸楽博士。

「いや、どうやら間違いなさそうじゃ」