安達弾~打率2割の1番バッター~ 第20章 特待生 比嘉流星の入部⑪

 2017年。4月8日。船町北高校入学式の翌日。

 この日、船町北高校野球部の練習にやってきた入部希望者は、特待生の比嘉を除いてたったの3人しかいなかった。

「佐藤一郎です。ピッチャー志望です。よろしくお願いします」

「田中孝志です。ピッチャー志望です。よろしくお願いします」

「渡辺雄介です。ピッチャー志望です。よろしくお願いします」

(うちは甲子園予選の決勝まで進んで、しかもプロ選手を2人も排出した高校だぞ。それが、あろうことか入部希望者がたったの3人って一体どういうことだ?)

 鈴井監督は、新入部員の予想外の少なさに驚きを隠せなかった。

(いや、もしかしたらまだ入部しようか迷ってる奴だっているかもしれない。ちょっと探りを入れてみるか)

「3人ともそれぞれ別のシニアチームに所属していたみたいだけど、チームメイトとか知り合いでうちの高校にきた野球経験者はいないのか?」

「他のチームメイトは、みんな三街道か龍谷に行っちゃいました」

「うちのところも同じです」

「うちのところはほとんど三街道ですね」

「マジか。というか、龍谷はともかく三街道が何でそんなに人気なんだ? まあ確かに、去年は甲子園の千葉大会でベスト4まで進んだが、それなら決勝まで行ったうちの方が人気が出るはずだろうに」

「監督、知らないんですか? 今年の三街道には、細田が入部するからですよ」

「細田? 細田はすでにエースとして活躍してるだろ」

「その細田の弟が入部するんです」

「あの細田に弟がいたのか」

「シニアじゃ弟の方が有名人ですよ。2つ年下なのに、実力は既に兄と同等かそれ以上とまで言われています」

「そんなにすごいのか」

「細田弟が入部するなら甲子園出場も狙えるかもってことで、今年は龍谷以上に三街道への入部希望者が増えてるって訳です」

「なるほどな。それじゃあ逆に聞くが、何でうちの野球部はここまで人気がないんだ? 遠慮はいらない。正直に話してくれ」

「それは……去年の秋季大会が原因でしょうね」

「無名校に大量失点で負けたのを見て、あそこはもう終わったってみんな言ってました」

「なるほど……」

「でも逆に、俺らはあの試合を見て船町北にくることを決意したんですよ」

「どうしてだ?」

「あれだけ投手層が薄かったら、俺でもエースになれるかもって思ったんです」

「それに、ここには安達さんがいますからね。ホームランで大量援護してもらえれば、俺がピッチャーでもワンチャン甲子園目指せるんじゃないかと思って」

(こいつら……うちの野球部舐めすぎだろ)