安達弾~打率2割の1番バッター~ 第20章 特待生 比嘉流星の入部⑩

 4月1日。比嘉の船町北高校野球部入部初日の練習が終わった。

(走りはもちろんだけど、守備もまあまあレベルが高いな。中学と比べたらだけど。そしてバッティング。安達先輩はもちろんだけど、山田先輩だっけ? あの人も結構いいスイングしてたな。そして他の人達はほとんどみんな、星部長みたいなバントとかバスターみたいな足を生かしたバッティング練習に特化していた。投げる方からすると、地味にやりづらいだろうな。あとキャッチャーの西郷とかいう奴。いきなり喧嘩売られるし変な喋り方だしムカつくけど、安達さんとの勝負と今日の投球練習で投げたたったの数十球で、もう俺のストレートをほとんど完璧に捕れるようになっていた。とりあえず、もう中学の頃みたいにキャッチャーに足を引っ張られて試合に出られなくなるような心配はなさそうだ)

「おい、比嘉。あと安達と西郷も。ちょっときてくれ」

 練習終わりの3人を呼んだのは、鈴井監督だった。

「突然だが、3人にクイズを出題する。今日、お前らがやっていた3打席勝負で投げた比嘉の球、一体何キロだったでしょうか? 最初の2打席で投げていたストレートの平均球速と、3打席目に5球投げた低めへのストレートの平均球速、そして1番最後に投げたストレートの球速、この3つの球速がどれくらいだったか答えてくれ。じゃあまずは安達から」

「えーと、最初のストレートは、だいたい150キロ中盤くらいだと思います。低めの浮き上がってくるストレートは、140くらいかな。そして最後のストレートは140の後半ってとこですかね」

「じゃあ次は西郷」

「おいどんも全部安達と同じくらいに感じたばい」

「じゃあ最後に比嘉」

「あのー先輩達、真面目に答えてますか?」

「はっ?」

「真面目に答えてるたい。何か文句あるたいか?」

「いや、別に文句って訳じゃないですけど、何か俺の投げてる感覚と答えがあまりにもかけ離れたんでつい」

「かけ離れてるって、比嘉はどのくらいの球速だと思ってるんだ?」

「最初のストレートは多分140くらい。低目へのコントロール重視のストレートは120くらい。そして、最後に投げたストレートは150以上は出てるかと」

「いやいや、さすがにそれはないたい」

「比嘉、全問正解だ」

「えっ! マジたいか?」

「本当ですか?」

「本当だ。ちゃんとスピードガンで測ってたからな。最初のストレートの平均球速は140キロ前後、3打席目の低めのストレートは120キロ前後、そして最後のストレートは、151キロだった」

「監督、それってスピードガンが壊れてたんじゃ」

「俺も最初はそれを疑った。それで確認のため、吉田の投球練習の時にまた使ってみたが、いつも通りの球速だった」

「さっきからみなさん何言ってるんすか。俺の投げてる感覚とスピードガンの数値が一致してるんすから、何の問題もないじゃないっすか」

 比嘉の言葉を無視して、3人は話しを続ける。

「監督、やっぱりスピードガンの調子が悪かったに決まってるたい」

「俺もそう思います。比嘉の時だけ調子が悪くて、吉田先輩の時には直ってたんじゃないですか?」

「いや、そんなにコロコロ調子は変わらんだろ。恐らく原因は、比嘉のストレートの球質にあると俺は睨んでいる。近い内に、ちゃんと調べてみないとな」